真空もゆがむのか? ブラックホールの謎に迫る新衛星、NASAや理研などが打ち上げへ
理化学研究所などの研究チームが参加する、米国主導の国際共同プロジェクトは12月9日に、新たな観測衛星「X線偏光観測衛星IXPE」を打ち上げた。IXPE衛星は、天体X線の偏光を高感度で観測できる世界初の衛星で、宇宙での多くの謎の解明を期待できる。
理化学研究所などの研究チームが参加する、米国主導の国際共同プロジェクトは12月9日に、新たな観測衛星「X線偏光観測衛星IXPE」を打ち上げた。IXPE衛星は、天体が放射するX線の偏りや方向を表す「偏光」の性質を高感度で観測できる世界初の衛星で、宇宙での多くの謎の解明を期待できる。
宇宙には、ブラックホールや爆発した星の残骸(超新星残骸)など、X線を放射する天体は数多く存在するが、X線は地球の大気を通過できないため、観測するにはX線検出器を宇宙に持っていく必要があった。
1970年代にも、米国の研究チームがX線偏光観測を試みたが、当時は観測装置の感度が十分ではなく、おうし座にある超新星残骸「かに星雲」のみ観測できたという。X線の偏光はこれまでの観測で得られる画像や時間変動、エネルギーなどの情報とは異なる情報が得られるため、その後も研究や技術開発が進んでいた。
X線偏光観測では、宇宙での多くの謎の解明を期待できるという。例えば、ブラックホールのすぐ近くでは、ブラックホール自身の高速回転や強い重力によって時空がゆがんでいる。この付近では何もないはずの真空そのものがゆがめられ、磁場の向きにより光の速度が変化する特異な状態が実現されると考えられる。この現象ではX線の偏光がそろうことが予想されており、IXPE衛星によって実際にこの状態を観測できると期待されているという。
IXPE衛星は、9日の打ち上げ後、宇宙空間で1カ月間、機能・性能評価をした後、天体の観測を始める。運用期間は約2年間の予定だが、最初の数カ月から半年程度の観測で、多くの新発見を期待できるため「世界中の天文学者がIXPE衛星の観測結果を心待ちにしている」(理研)としている。
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