「筋肉をARで可視化するデバイス」を簡単に作れるツールキット 米MITなどが開発:Innovative Tech
米MIT CSAILと米Massachusetts General Hospitalの研究チームは、筋肉の動きを検知するデバイスを設計するための新しいツールキットを開発。このツールキットを利用することで、誰でも独自の筋肉検知ウェアラブルデバイスを設計できる。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米MIT CSAILと米Massachusetts General Hospitalの研究チームが開発した「EIT-kit: An Electrical Impedance Tomography Toolkit for Health and Motion Sensing」は、筋肉の動きを検知するデバイスを設計するための新しいツールキットだ。このツールキットを利用することで、誰でも独自の筋肉検知ウェアラブルデバイスを設計できる。
ツールキットは、「電気インピーダンストモグラフィ」(Electrical Impedance Tomography、EIT)と呼ばれる、人の表面に電極を取り付け電圧を印加することで、その人の内部伝導率を測定し、視覚化するイメージング技術を採用している。EITは通常、肺機能の観察やがんの検出などに使う。
EITセンシングは、昔と比べハードウェアが小さくなったものの、設計に必要な専門知識はまだ高いままだ。今回はこのハードルを下げる目的に、EITウェアラブルデバイスの開発のさまざまな段階でユーザーをサポートするツールキットを提案する。
ツールキットは、ユーザーがデバイスのパラメータを入力して、測定セットアップを設計できる3Dエディタや、異なる測定セットアップ(2端子と4端子、最大64個の電極、単一または複数の電極アレイ)をサポートするカスタマイズしたEITセンシングマザーボードなどが備わっている。EITデータ収集を自動化するためのマイクロコントローラー用ライブラリ、画像再構成のためのAPIを用意している。
3Dエディタによって設計したデータから、3Dプリンタで出力し組み立てることでデバイスを作り上げる。完成したデバイスは、センシングマザーボードと接続しマイクロコントローラーで電気インピーダンスの測定を自動化すると、スマートフォンなどで測定データを視覚的に確認できるようになる。
研究チームはこのツールキットの有効性を評価するため、被験者の大腿部の筋肉の活動を感知するプロトタイプを作成し、けがの後の筋肉の回復をモニタリングした。ここでのプロトタイプは、2つの電極アレイを使って太ももの3D画像を作成し、ARで筋肉活動をリアルタイムで表示した。
また、腕に装着し手のジェスチャーを認識したり、手の動きから運転の危険を検知したりなども行った。運転では、ハンドルに手を添えていない姿勢が運転中の注意力低下を意味し、多くの事故の原因となっていることを前提に、両腕に装着したデバイスでハンドルから手が離れたかを識別し警告する。
現在研究チームは、病院と協力し、治癒中に患者の体のさまざまな部分を監視するリモートリハビリテーションデバイスの作成を進めているという。これによって、患者の体形や特定のけがに合ったデバイスを自宅で使用して、医師に治癒プロセスの全体像を伝えることができるという。
Source and Image Credits: Junyi Zhu, Jackson C Snowden, Joshua Verdejo, Emily Chen, Paul Zhang, Hamid Ghaednia, Joseph H Schwab, and Stefanie Mueller. 2021. EIT-kit: An Electrical Impedance Tomography Toolkit for Health and Motion Sensing. In The 34th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST '21). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 400–413. DOI:https://doi.org/10.1145/3472749.3474758
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