「CES 2022」取材を断念した理由 「リアルイベントの価値」とは何かを考える(3/3 ページ)
オミクロン株まん延で相次ぐCES 2022への出展中止。取材陣も大きな影響を受けている。取材を断念した西田宗千佳さんに、事情を説明してもらった。
大手企業はメディアパワーがあるからいい、だが……
YouTubeにプロモーションビデオ(PV)や解説ビデオをアップロードし、リリースをCES主催者のCTA(全米民生技術協会)に配信してもらうことはできるだろう。だが、毎日CTAから数十本送られてくるメールを全て見て、ビデオなどをちゃんとチェックし、ミーティングまで考える人はそう多くない。評価が定まっておらず、情報だけではなんとも判断がつかないからだ。
別の言い方をすれば、これは「スタートアップの持つメディアパワーの弱さ」でもある。
大手企業はそもそも、自分自身がメディアパワーをもつ。人気企業ともなれば、大半のマスメディアよりもずっとメディアパワーを持っている。彼らなら、新製品を出してもPVを流しても、見てもらえる可能性は高い。報道側への売り込みも楽だし、プロモーションにもお金をかけられる。
だが、スタートアップは違う。面白いことをしていても、伝えるノウハウや予算がなければ、その価値を世の中に伝えるのは難しい。本質的な技術やビジネス価値をもつ企業より、PVをうまく作れる企業の方が目立ってしまうこともある。
リアルイベントの価値は、そうした不利をひっくり返せる「可能性がある」ところにある。
実際に目の前で動くものを見せられれば、PVよりもずっと価値が伝わる。机1つのブースではそれも簡単なことではないが、その場ですぐ関係者に話を聞けるわけで、YouTubeのPVで取材先を吟味するよりは間違いなく確度は高い。
メディアにとっても、そしてスタートアップにとっても、現状のオンラインイベントより、リアルイベントの方が価値をもつ部分がある。
22年のCESをリアル取材したかったのは、そういう部分から得られるネタや空気感が欲しかったからだ。同じように、出展を予定していながら渡米を断念したスタートアップ関係者は複数いて、彼らもまた、重要なアピールの機会を失ったことになる。
23年こそは、いや、22年のどこかでは、国際イベントに安心して参加できるようになることを期待している。しかし、そこで楽観は禁物であることを、CES 2022は教えてくれた。
同業者の中には、2月末からスペイン・バルセロナで開催される「MWC Barcelona 2022」の取材を予定している人も多い。果たして、そのタイミングでは問題が落ち着いているだろうか。
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