“ひとり開発”のAIで1日数千万件の広告審査を効率化 「AIは詳しくない」ヤフー社員が実現できたワケ(1/3 ページ)
広告が増加し、これまでの手法では審査が追い付かなくなっていたヤフー。異動したての社員が1人でAIを構築し、チェックを自動化したところ、工数削減に成功したという。人材も知識も少ない中、1日数千万件にも及ぶ広告審査を効率化できた理由とは。
「Yahoo! Japan」といったサービスを提供するメディア事業であると同時に、国内屈指の規模を持つWeb広告プラットフォーマーでもあるヤフー。2021年に扱ったWeb広告の数は数千万件に上るという。一方、同社は広告配信で課題も抱えていた。ガイドラインに沿わないコンテンツを除去する「広告審査」に手間がかかることだ。
同社が広告事業を始めた96年当初は人力で、途中からは自社開発した広告審査システムを使って不正な広告を除去していたが、件数が増えるにつれて作業が追い付かなくなった。そこで、AIを活用した審査システムを新たに開発。20年1月にこれまでのシステムと併用を始めたところ、工数の削減に成功したという。
プロジェクトを手掛けたのは、ヤフーのエンジニアである伊藤瞬さん(メディア統括本部トラスト&セーフティー本部プロダクト開発部長)。伊藤さんは当時、社内制度を活用して部署を移動したばかりで、AIや広告審査の知識があまりなかった。しかも他に開発メンバーがおらず、ほぼ1人でAIを構築しなければいけない状態だったという。
人材も知識も少ない中、伊藤さんはどのように1日数千万件規模の広告審査を効率化するAIを構築できたのか。伊藤さんと、ヤフーの一条裕仁さん(メディア統括本部トラスト&セーフティー本部本部長)に聞いた。
コロナ禍で広告が多様化、従来の審査ツールでは対応できず
「クライアントから入稿された広告コンテンツがヤフーの広告ガイドラインに沿っているか、かつては人の目で一つ一つチェックしていた。しかし広告量が増えるにつれて人手作業ではとても追い付かなくなり、ガイドラインに抵触する広告コンテンツを自動検出できるシステムを活用していた」
AI導入前の審査体制を、一条さんはこう振り返る。この自動審査システムは、広告のタイトルや説明文、URLリンク、リンク先ページなどのテキストデータをチェックし、事前に設定したNGキーワードが含まれていれば担当者に通知する仕組みだ。
このシステムを導入したことで、広告審査の作業は人力に比べてある程度効率化できたという。しかし、近年は広告量が増加傾向にある他、内容も多様化しており、より一層の効率化が求められるようになった。
「これまでは、システムが検知するNGワードやその組み合わせなどを、審査担当者が常に細かく調整することで精度を維持してきた。しかしチューニングを人手に頼っている以上、検知精度の向上や、世の中のトレンドへのキャッチアップなどにはどうしても限界が生じる。そこで、これまで行ってきた審査の実績データをAIに学習させることで、自動でNG広告を検知できるのではないかと考えた」(一条さん)
チューニングを人手による作業に頼りすぎると、ノウハウが属人化してしまう恐れもあった。こうした事態を回避し、誰が担当しても一定の検出精度が出せるよう、機械学習を用いた広告審査の仕組みを検討することにした。
関連記事
- 「年1万時間の業務削減」自社AIで成し遂げたオープンハウス カギは住宅チラシの自動作成 キーパーソンに聞く舞台裏
住宅チラシの作成をAIで自動化し、年1万1250時間分の作業を削減したオープンハウス。AIで効率化した住宅チラシ作りの裏側はどうなっているのか。開発のキーパーソンや現場の営業マンに聞く。 - 月3000枚の墓石写真を自動で名前消し “AIに無関心”だった元石材屋の社員がエンジニアと業務AIを作るまでの一部始終
これまでITとのかかわりが薄かった元石材屋の女性がWeb企業に転職。エンジニアと協力してAIを開発し、墓石情報サイトの業務削減を実現した。「AIに関心なかった」と話す女性が業務改善できた理由とは。 - 音ゲーの“譜面”作りをAIで高速化 KLabが「スクスタ」で活用、所要時間を半分に
KLabが自社開発したAIツールを使って、リズムゲーム「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル ALL STARS」の譜面作りを効率化。音源をアップロードすると、譜面を自動作成するという。開発チームのメンバーが仕組みを解説した。 - まるで“SIer版ヤシマ作戦” 「エヴァ」公式アプリを配信基盤含め1カ月で開発 エンジニア2人の失敗できない挑戦記
リリースは1カ月後、プロジェクトに参加するエンジニアは2人という状況で「シンエヴァ」公式アプリの開発に挑んだSIer。仕様や配信基盤もほぼ決まっていない中、なぜ1カ月でリリースにこぎつけられたのか。2人が挑んだ“SIer版ヤシマ作戦”を探る。 - キリン、ビールの製造計画をAIで立案 年3000時間以上を削減 まずは「ろ過計画」から
キリンビールが、AIを活用してビール類の製造を効率化するシステムを開発し、仙台工場など全9工場で運用している。タンクに貯蔵した麦汁をいつろ過し、どのタンクに移し替えるかという計画を自動立案するもので、年3000時間以上の業務削減が見込めるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.