「頭をなでる」「ビンタ」「ハグの拒否」などアバター同士の接触を滑らかにするVR技術、東工大が開発:Innovative Tech
東京工業大学長谷川研究室の研究チームは、バーチャル空間でアバター同士もしくは3Dオブジェクトとの接触の際に、両者が自然な動きで表現できる技術を開発した。頭をなでる、ハグするなどの動きを滑らかなリアクションで表現する。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
東京工業大学長谷川研究室の研究チームが開発した「Avatar Tracking Control with Generations of Physically Natural Responses on Contact to Reduce Performers’ Loads」は、バーチャル空間でアバター同士もしくは3Dオブジェクトとの接触の際に、両者が自然な動きで表現できる技術だ。
頭をなでる、ハグするなどのアバター同士の接触が行われた際に、その接触に応じた滑らかな動きを自動生成して不自然さが少ないリアクションを表現する。
近年、バーチャルYouTuber(VTuber)や、VR空間でアバター同士がコミュニケーションをとるVRChatなどのソーシャルVR、複数のプレイヤーがオンラインで対戦するVRゲームなど、モーションキャプチャーを使ったアバターがバーチャル空間でリアルタイムにパフォーマンスを行う場面が多くなった。このようなアバターアプリケーションでは、接触型のコミュニケーション(握手や抱きしめるなど)が行われる。
しかし、接触時に突き抜けてしまったり、反応がなかったりと、不自然な動作により臨場感を損なう場合がある。今回はこの問題を解決するため、3Dオブジェクトや他のアバターとの自然な接触を表現できるアバター制御法を提案する。
提案手法では、アバターや3Dオブジェクトとの衝突を検知して接触力を計算する剛体物理シミュレーションを使い、接触の影響を考慮した動作を自動的に生成する。 また、フィードフォワード制御を組み合わせる方法でトラッキングの遅延を低減する。
システムは、メインシミュレーションとトラッキングトルクを計算するシミュレーションの2つの物理シミュレーションで構成する。これらのシミュレーションでは、関節角度のPD制御を行っており、接触時の応答と非接触時の素早い追従を両立させるために、異なるPDゲインを採用している。
トラッキングトルクを計算するシミュレーションでは、PDゲインを高くすることで、入力した動きを素早くトラッキングするために必要な関節トルクを計算している。
これにより、アバターは接触していない状態では遅延なくトラッキングを行え、接触時にはアバターが柔らかく変形し、接触終了後はゆっくりと元のポーズに戻る動作を自動生成する。
実験では、この手法を適応したバージョンや適応しない通常のバージョンなどを試し比較した。アバターの物理モデルは、 総重量50kg 、アバターの骨構造に基づいた物理シミュレーション用の剛体関節モデルを使用した。
Unityで開発し、入力デバイスとしてOculus RiftとOculus Touchを使用した。ボトル(9kgと1.5kg)が飛んできてアバターにあたる、アバターの顔や背中をたたく、頭をなでる、抱きしめるなどのモーションを行い、被験者に自然かを9段階で評価してもらった。
結果、3Dオブジェクトに当たる、アバターをたたくなどは、衝撃を吸収するように首や腰が滑らかに曲がる大きな動作を生成して、この手法の方が有意に自然と評価された。
一方、ハグや頭をなでるなどは、衝撃を吸収する量も少ないことから動作が比較的小さくなり、有意な差は見られなかった。別の実験では、相手が不規則な動きをするなど貫通が生じやすい場面では、提案手法の方が少ない回数で演技に納得できており、ユーザーの演技負荷軽減が実証された。
動画はこちら
Source and Image Credits: Ken Sugimori, Hironori Mitake, Hirohito Sato, Kensho Oguri, and Shoichi Hasegawa. 2021. Avatar Tracking Control with Generations of Physically Natural Responses on Contact to Reduce Performers’ Loads. In Proceedings of the 27th ACM Symposium on Virtual Reality Software and Technology (VRST '21). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 1, 1-5. DOI:https://doi.org/10.1145/3489849.3489859
関連記事
- VRキャラクターに耳を「フー」してもらえるヘッドフォン、東大が開発 風源なしで温冷風を再現
東京大学 Human & Environment Informatics Labの研究チームは、物理的なファンによる風がないにもかかわらず、風の感覚を耳で得られるヘッドフォン型ウェアラブルデバイスを開発した。 - VTuberの動きをオーバーリアクションに自動変換 中の人の表情などをアニメーションに反映
米パデュー大学の研究チームは、バーチャルYouTuber(VTuber)の配信において、ストリーマーの実際の動きよりも表現豊かな動きとして拡張し出力するシステムを開発。ストリーマーのトラッキングから得た音声や表情などに基づいてアニメーション生成する。 - VRのキャラクターに「腕グイ」されるデバイス 政大や京大などが開発
国立政治大学や京都大学、米ポモナ・カレッジ、米カリフォルニア大学デービス校の研究チームは、VR中でユーザーの腕を引っ張る触覚ウェアラブルデバイスを開発した。 - 作業中に「ツンデレ」されるとやる気は高まるか? メイドアバターで、奈良先端大が検証
奈良先端科学技術大学院大学の研究チームは、冷たい対応と優しい対応を組み合わせた動作「ツンデレ」が作業意欲にどのような影響を与えるかを検証した。 - 「崖から落ちたけど、壁にナイフを刺して何とか助かったぜ…」を体験できるVR、東京電機大が開発
東京電機大学松浦研究室の研究チームは、人が崖から滑落する際に、助かろうとナイフを斜面に突き立てて停止する動作を再現したVR触覚システムだ。落下から崖をナイフで刺し、しばらく引きずられて停止するまでの疑似体験を提供する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.