声のプロに音声合成AIの品質はどう映る 声優・森川智之さんが語る“技術への向き合い方”(3/3 ページ)
声優の森川智之さんは小学館のプロジェクトでその声をAIとして保存した。声のプロから見たAI音声合成の質について森川さんは「まだまだ問題はある」としながらも技術の発展については好意的だ。
新技術との壁を作らず、可能性を探る
―― 最近見掛けなくなりつつありますが、AIが何かできるようになるたびに「人間の仕事を奪うのではないか」という不安の声が出ることもありました。CoeFontであれば「声優の仕事を奪うのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、森川さんはどうお考えですか?
森川 今回CoeFontを作らせてもらって、本当に特別な体験をさせてもらってますが、自分の分身ができるっていうのはわくわくするというか「せっかくAIとして僕の音声が世の中に出るんだったら、いろんなアイデアでいろいろチャレンジしてほしいな」と思いますね。
僕的には、デメリットだと思うことがデメリットな気がしています。技術革新って便利で平和な世の中にしていく中でが起きてると思うんですね。
デメリットって言うと壁を作ってしまうような気がして。僕の中では全くデメリットって無くて。もちろん、技術や活用が進んでいく中で無法地帯になるとか、ルールを作らないと行けなくなるとは思いますが、それは「AIだから」ではなくて普通のことですよね。そういう意味では、全然暗い気持ちにはならないというか、これからも新しいものが出てくるし、新しい芸能のスタイルも生まれて変わっていくのかなと感じています。
―― 逆に“分身”がいるメリットはありますか?
森川 例えば、1日は24時間なので健康的な生活をするためには夜寝ますよね。でも世の中には朝と夜が逆転している方もいるし、AIが深夜番組をやってくれると面白いのかなとか、そういうすみ分けができるといいですね。
あるいは、年末年始の病院が通常通りやってないときに限って虫歯が痛くなる人がいるじゃないですか。僕もこの年末年始に狙ったかのように銀歯が取れちゃったりして「何で年末年始なんだ」とか思ってたんですが、いまだと深夜番とか休日当番医とかいると思うんですけど、そうやって(自分が働いてない時間を)カバーできると、便利で助かったって思えていいかなーと。
―― CoeFontは音声を作るAIなので、森川さんの言動をトレースすることは無いですが、他のAIと組み合わせれば勝手にしゃべる「AI森川さん」もできるかもしれないですね。
森川 ラジオでもネット配信の番組でもいいですけど、僕本人は寝てて、AIがファンの皆さんの相手をする。後で僕が起きたときに、僕が言わないようなことを言ってることが起きるかもしれなくて、「僕は思い付かなかったな」「僕のAIそんないいこと言ったんだ」ということが起きるかもしれないし、もしかしたら炎上しているかもしれないし、そこは面白そうですよね。
逆にAIと本物の2人で番組をやってみたりもできるのかなとも思いますね。
技術を通して自分の仕事を見つめ直す
―― 他の声優さんにCoeFont音源制作を勧められる部分はありますか?
森川 食わず嫌いじゃないですが、新しい技術に対して二の足を踏む方っていっぱいいると思うんですよね。
でも、これからの技術に触れることで、自分の仕事の大切さや、われわれの仕事の価値を体感してもらえるってところもありますよね。
声優の仕事はどちらかというとアナログな仕事で、最初はTVで生放送しかやっていなかったのが、6mmテープからベータマックス、VHS、DAT、MDなど、ハードは変わっていくけど、僕らの仕事は全然変わってなくて。
でも、だからといって技術を受け入れないとなると、そこで芸能の世界も止まってしまうというか、終わってしまうような気がするので、新しいものをうまく取り込めるようなことをいっぱい考えてアイデアを出し合った方がいいのかなと思います。
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