月面探査機「玉兔2」による月の裏側の調査報告 暗い緑色に光るゲル状物質を発見:Innovative Tech(3/3 ページ)
中国やカナダ、ドイツの研究チームは、月面探査機「玉兔2」(Yutu-2)による月の裏側の移動探査について、初期の2年間で行った探査内容や分析結果を詳細に書き記した調査書を発表した。主に、25日間の探査記録(CE-4ミッション)をベースに報告する。
車輪に付着した土壌の調査
CE-4ミッションにおいて、玉兔2のホイールには大きな塊状の土壌が付着しているのを観察した。ホイール表面の46%以上が塊状の土壌で覆われており、これは4日目や5日目、6日目、19日目、23日目の車輪の画像に見られ、他の日にも同様に観測した。
(A)玉兔2の左前輪に付着した不規則な形状の大きな土壌の破片。画像はCE-4ミッションの9日目に撮影したもの、(B)玉兔の左前輪には土が付着しておらず、細かい粒子のみできれいである。CE-3ミッションで撮影した画像
CE-3ミッションでの車輪では確認できなかったことから、CE-4地点ではより高い粘土を持つ土壌と考えられる。このようにレゴリスの凝集力が高いのは、レゴリスに含まれる「アグルチネート」という岩石の割合が高く、それが土壌の成熟度に比例しているためと考えられる。これは、CE-4地点の土壌がCE-3地点よりも成熟していることからも裏付けられる。
車輪がどれだけ沈んだかで土壌の特性も推測できる。CE-3では車輪半径に対する沈み込みの割合は5.6〜11.5mmに対し、CE-4では5〜15mmと後者の方がやや深く沈んでいるのが分かる。
この結果は、CE-3地点のレゴリスは、CE-4地点のレゴリスよりも相対的に耐力が強いことを示している。また、月の裏側で確認したレゴリスがアポロ計画で確認できたレゴリスよりも強いことを示し、さらに、月の裏側にあるレゴリスの支持力は、地球上の乾燥した砂や砂壌土の支持力に類似していることが分かった。
まとめ
この研究では、CE-4ミッションで長期滞在した玉兔2による探査結果について説明した。ミッション中、玉兔2は軽度の車輪のスリップを経験しており、地形は大局的には比較的平たんであるが、局所的には緩やかな傾斜が散在していた。
レゴリスについては、CE-3地点と比較してレゴリスの特性が凝集性を増していることが明らかになった。これは、露出時間が長く、風化作用が進んだためにアグルチネートの割合が高くなったためと推測される。
車輪に付着した土は、他の月面地点に比べて土壌の凝集性が高いことを示した。また、レゴリスは地球上の乾燥した砂や砂壌土に似た性質を持っており、アポロ計画で確認できたものよりも高い支持力を持っていることが分かった。
岩石が少ないのとは対照的に、噴出物を持つ小さな新鮮なクレーターが多く存在し、その中には二次的な衝突現象を示唆する高反射のゲル状の物質が底部に含まれていた。これらの発見は、月の表側と裏側の表面地質の違いを示すものとなった。
Source and Image Credits: L. Ding, R. Zhou, Y. Yuan, H. Yang, J. Li, T. Yu, C. Liu, J. Wang, S. Li, H. Gao, Z. Deng, N. Li, Z. Wang, Z. Gong, G. Liu, J. Xie, S. Wang, Z. Rong, D. Deng, X. Wang, S. Han, W. Wan, L. Richter, L. Huang, S. Gou, Z. Liu, H. Yu, Y. Jia, B. Chen, Z. Dang, K. Zhang, L. Li, X. He, S. Liu, and K. Di “A 2-year locomotive exploration and scientific investigation of the lunar farside by the Yutu-2 rover” SCIENCE ROBOTICS. 19 Jan 2022, Vol 7, Issue 62, DOI: 10.1126/scirobotics.abj6660
関連記事
- NASAの宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ」、目的地のラグランジュ点に無事到達
NASAが昨年クリスマスに打ち上げた「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が目的地の軌道に無事到達した。地球から約161万Km離れたラグランジュ点L2でこれから3カ月かけて機材を調整する。 - NASAの宇宙探査機が太陽コロナに到達 史上初
米航空宇宙局(NASA)は宇宙探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が太陽の上層大気であるコロナに到達したと発表した。NASAは「歴史上初めて、宇宙船が太陽に触れた」とコメントしており、コロナで粒子や磁場のサンプリングを行っているという。 - 真空もゆがむのか? ブラックホールの謎に迫る新衛星、NASAや理研などが打ち上げへ
理化学研究所などの研究チームが参加する、米国主導の国際共同プロジェクトは12月9日に、新たな観測衛星「X線偏光観測衛星IXPE」を打ち上げた。IXPE衛星は、天体X線の偏光を高感度で観測できる世界初の衛星で、宇宙での多くの謎の解明を期待できる。 - 月面基地で活躍する測位システム、JAXAとカシオが球場で実験
カシオ計算機は29日、JAXAと共同で月面基地での活用を想定した測位システムの実験を始めると発表した。 - JAXA、13年ぶりの宇宙飛行士の募集を12月から開始 月面での活躍も想定
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、新たな宇宙飛行士の候補者を募集に向けて、募集要項などを発表。採用人数は若干名で、応募資格は3年以上の実務経験と、視力などの条件を定めており、学歴や専門分野は問わない。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.