手首が震えると体感時間は長く感じる? 立命館大の研究チームがリストバンド型デバイスで検証:Innovative Tech
立命館大学村尾研究室の研究チームは、主観時間(人が主観的に感じる時間の長さ)をスマートウォッチなどの手首装着型デバイスからの触覚刺激で操作できるのかを検証した
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
立命館大学村尾研究室の研究チームが発表した「触覚刺激を用いた主観時間の制御手法の検討/A Method to Manipulate Subjective Time by using Tactile Stimuli of Wearable Device」は、主観時間(人が主観的に感じる時間の長さ)をスマートウォッチなどの手首装着型デバイスからの触覚刺激で操作できるかを検証した研究だ。
外部から受ける刺激によって人の主観時間が変わる心理現象が存在する。この心理現象を利用し、主観時間の操作をいつでもどこでも実行できるように、常に装着できる手首型装置に着目した。提示方法は多くの既存方法である視覚や聴覚ではなく触覚を選んだ。触覚刺激は、手首から皮膚に対して振動で与える。
プロトタイプは、触覚刺激用の振動素子4台、振動素子を装着するためのリストバンド、マイコンボード(Arduino)、ノートPC、刺激を提示するためのソフトウェアで構成する。
実験では、触覚刺激パターンを操作することで、主観時間がどう変化するかを評価した。被験者は20代前半の30人を対象に、10秒間の主観時間の変化を評価した。触覚刺激は10秒間の3種の刺激パターンを用意。
1種目は刺激の回数が異なる刺激パターンである。具体的には、刺激の回数を3回、5回、11回で行う。2種目は刺激の持続時間が異なる刺激パターンである。刺激の持続時間を200msの5回、500msの5回、1000msの5回で行う。3種目は刺激の時間間隔が異なる刺激パターンである。刺激の時間間隔が広がっていく5回、等間隔の5回、狭まっていく5回で行う。
手順は、2つの触覚刺激パターンを実行し、どちらが長く感じたかを選択してもらう。被験者は2種類の刺激を体験し、前者の方が長い、後者の方が長い、あるいはどちらも同じと回答した。この試行は、3種類の刺激パターンから2つのパターンをペアとする3ペアについて行われた。
実験の結果、刺激の数を増やすと主観時間が長くなり、減らすと短くなった。この結果は、聴覚刺激で行った先行研究と逆の傾向であり、視覚刺激で行った先行研究と同じ傾向であった。刺激の持続時間を大きくすると主観時間が長くなり、小さくすると短くなった。刺激の時間を変えても主観時間は一定の傾向で変化しなかった。
次の実験では、触覚刺激が主観的な時間を実際の時間の経過にどの程度変化させられるかを評価した。被験者には、刺激の回数3回と11回、刺激の持続時間200msと1000ms、刺激の時間間隔広がりと狭まり、の6種の刺激パターンをそれぞれ10秒間体験してもらい、何秒に感じたかを回答してもらった。
結果、3回の刺激では主観時間が9.63秒となり、実際の時間より3.7%短くなった。それに対し、11回の刺激では主観時間が16.7秒となり、実際の時間より16.7%長くなった。その他の刺激については表のように主観時間が変化した。この結果から、手首への触覚刺激は、被験者に実際の時間よりも短く感じたり、長く感じたりさせることが可能であると分かった。
この成果は、スマートウォッチに適用できるだけでなく、振動素子を用い、HMDやイヤフォンなどのウェアラブルデバイス、スマートフォンなどのモバイルデバイスなどにも適用できる。活用方法は、苦痛を感じる退屈な時間を短縮する、運動の休憩時間を長くするなど、多岐にわたるだろう。
出典および画像クレジット: 白井希一, 双見京介, 村尾和哉. "触覚刺激を用いた主観時間の制御手法の検討." 研究報告ユビキタスコンピューティングシステム (UBI) 2021.1 (2021): 1-9. http://id.nii.ac.jp/1001/00211341/
Kiichi Shirai, Kyosuke Futami, and Kazuya Murao. 2021. A Method to Manipulate Subjective Time by using Tactile Stimuli of Wearable Device. In 2021 International Symposium on Wearable Computers (ISWC '21). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 63-67. DOI:https://doi.org/10.1145/3460421.3480932
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