ランナーの少し前にバーチャルキャラクターを走らせたらどうなる? 東大と豊技大が検証:Innovative Tech
東京大学と豊橋技術科学大学の研究チームは、自分の前にバーチャルキャラクターを走らせるとランナーはどう感じるかを検証した論文を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
東京大学と豊橋技術科学大学の研究チームが発表した論文「Solitary Jogging with A Virtual Runner using Smartglasses」は、自分の前にバーチャルキャラクターを走らせるとランナーはどう感じるかを検証した報告書だ。
個人で運動するよりも、他者との運動の方がモチベーションが向上する可能性がある。またグループで登山する状況では、能力の低いメンバーが休憩すると同時に、能力の高いメンバーも休憩しなければならないため、能力の低いメンバーがより頑張ろうという気になる傾向がある。自分より少し優れたメンバーと結合的に運動すると高い効果が得られるのだ。
今回はジョギングを対象に、スマートグラスに表示された少し前を走るバーチャルキャラクターを提示した際の評価を行う。今回使用するスマートグラス(EPSON MOVERIO BT-300、両眼1280×720画素、重量69g)は、走行中の負担を小さくするために軽量なものを採用する。前を走るバーチャルキャラクターは、前方の視界を遮る懸念からバーチャルキャラクターの見え方を調整し比較する。
実験では、3つの身体視認性バーチャルキャラクター(全身アバター、点光源アバター、四肢のみのアバター)を用意し、3つの走行条件(一人走行、バーチャルキャラクターと走行、実在の人間と走行)で屋内外をジョギングした。
バーチャルキャラクターは1分間に180歩の回転数で走る。この回転数は歩幅の広がりすぎによるけがを防ぐための理想的なランニングケイデンスだという。バーチャルキャラクターのジョギングは、ユーザー視点から10m先を走っているように見せる。この距離はバーチャルキャラクターの全身が見える最短距離だという。
バーチャルキャラクターは、ユーザーの動きを検知してから動き出す。ユーザーの動きが鈍くなったり止まったりすると走行を停止する。ユーザーの動きや歩幅は、アルゴリズムによりスマートグラスに内蔵した加速度センサーで検出して、バーチャルキャラクターを走らせるか静止させるかの判断を1秒ごとに行う。
今回はAR技術を使用せず、スマートグラスは単なるウェアラブルディスプレイとして使用する。ジョギングは頭の動きが速いため、環境認識が遅れてしまい、バーチャルキャラクターが空を飛んだり地面に沈んだりと、落ち着きのない動きをとることによりジョギングへ悪影響を及ぼすからだ。
実験の結果、身体の視認性が低くてもバーチャルキャラクターとジョギングした方が1人でのジョギングよりも楽しさの評価が高かった。この結果は、カジュアルなジョギングにおいて、バーチャルキャラクターがチーム意識を持たせて孤独なジョギングよりも楽しませてくれることを示唆した。
屋内では点光源アバターや四肢のみのアバターでもモチベーションが向上したが、屋外では点光源アバターや四肢のみのアバターよりも全身アバターとのジョギングの方が楽しさが高いことを示した。日中の屋外ではアバターが見えにくいことが一因という。
実験後のインタビューでは、バーチャルキャラクターの動きに合わせてジョギングしたコメントが多かったことから、けがの防止にも役立っていることを示唆した。
バーチャルキャラクターよりも実在する人間の方が影響を与える結果を示したが、バーチャルランナーはユーザーにプレッシャーを与えず楽しみを与え、頑張った感や心身の負担を増加させないことを示唆した。
Source and Image Credits: Takeo Hamada, Ari Hautasaari, Michiteru Kitazaki, and Noboru Koshizuka. Solitary Jogging with A Virtual Runner using Smartglasses, IEEE VR 2022.
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