Q.SaaSの価格設定は誰が担当すべきか マーケター、それとも経営層? 専門家の見解は:SaaSプライシングラボ
SaaSの価格設定は誰が決めるべき?──SaaSビジネスの価格設定を巡る疑問に専門家が見解を出す。
連載:SaaSプライシングラボ
SaaSの料金設定を巡る疑問に、価格設定に関するコンサルティング事業を手掛けるプライシングスタジオの高橋嘉尋社長がQ&A形式で答えます。
Q:価格変更を検討しているSaaSスタートアップです。弊社にはプライシングの専門部署がないのですが、どの部署にお願いするべきでしょうか?
A:プライシングは経営者の仕事であるという前提の下、価格設定に取り組むチームを作るのがいいでしょう。
プライシングは経営者の仕事
「プライシングとは」と検索すると、マーケティング戦略全体のなかで「実行戦略」と位置づけられる「マーケティングミックス」あるいは「4P」(製品:Product、価格:Price、プロモーション:Promotion、流通:Place)を構成する要素として解説されることが多く、マーケターの仕事であると考える方も多いと思います。
しかし筆者はプライシングは経営者の仕事であると考えています。
プライシングとは一般的に、製品やサービスの価格設定を指す言葉です。しかし実際には価格だけでなく「誰に何を売るか」まで考える必要があります。
例えばSaaSの場合、中堅・中小企業にサービスを提供するのと、エンタープライズにサービスを提供する場合では、求められる機能やカスタマーサポートの質、予算が変わってきます。
どういった属性の顧客に対してサービスを提供したいのかによって、実装する機能や、金額も変わります。つまり「誰に」「何を」「いくらで」をセットで考える必要があるのです。
設定する金額によっては、以下の画像のように「顧客数が増加するが、売上が減少する価格」「顧客数を維持し、売上が少し上がる価格」「顧客数が減少するが、売上が大きく上がる価格」など、変更後のシナリオが複数予想できる場合もあります。サービスを買ってくれる主要な顧客の属性も価格ごとに変わります。
どの選択肢が適切かという答えは、当然ながら一つではありません。どれを選択すべきかは経営の意思決定と関わるため、プライシングは経営者の仕事なのです。
専門チームの作り方
とはいえ、価格決定には事前の調査や、関係者への調整といった業務が必須です。しかし、経営陣が全てを担当するのは、時間的な制約などもあり現実的ではありません。
そこで、プライシングは経営者の仕事であるという前提の下、分業制のチームを作るといいでしょう。
チームは価格決定の意思決定者である「オーナー」、価格変更の実務を推進する「リーダー」、実際に手を動かす「プレイヤー」という3つのポジションから構成することをおすすめします。
意思決定を担う「オーナー」
プライシングの意思決定を成功させるに当たって重要なポイントの一つに、意思決定者を明確にすることが挙げられます。説明した通り、価格の決定は経営の意思決定に関わるので、経営者や経営に関わる意思決定をしている人(取締役、執行役員など)がこの役割を担う必要があります。
価格変更の目的設定、料金プラン(価格体系・金額)の設定、価格変更する対象の選択などが、このポジションが考える内容になります。
関係者への調整を担う「リーダー」
価格変更は関係者が多岐にわたるので(営業、マーケター、カスタマーサクセス、開発、販売代理店など)、各所と連携しながら価格改定を実行するには調整役が必須となります。
オーナーは多くの場合、経営者や取締役ですので、時間的な制約からこのポジションになることは現実的ではありません。仲立的なポジションである事業責任者や経営企画部門などがこの役割を担う必要があります。
調査などの業務を実行する「プレイヤー」
意思決定に向けてエビデンスをそろえるに当たっては、定量・定性面からの顧客インタビュー、データ収集、データ分析などの業務を担当するポジションも必要です。
このポジションには、日常業務の延長線上で対応できる人材をアサインするのがオススメです。例えば、顧客インタビュー・データ収集にはカスタマーサクセスチーム、データ分析には分析チームやマーケティングチームなどが適しているでしょう。
意思決定者を明確にし、多岐にわたる業務を分担していく組織を構築できれば、価格改定が成功する可能性は高まるでしょう。
著者紹介:高橋嘉尋(たかはしよしひろ)
プライシングスタジオ株式会社代表取締役社長。これまでリクルートをはじめとする大手企業から中小企業まで数十サービスの価格決定を支援。また、公的機関、学会、雑誌などへのプライシングに関する論文提出や講演会、寄稿などを通じ、プライシングに対するノウハウを積極的に発信。プライシング専門メディア【プライスハック】監修。
関連記事
- Q.SaaSサブスクの値上げ、既存ユーザーにも適用すべき? 専門家が解説するメリットとデメリット
SaaSを値上げするとき、既存顧客にも新しい価格を適用すべき?──SaaSビジネスの価格設定を巡る疑問に専門家が見解を出す。 - SaaS企業が恐れる「解約率」との正しい向き合い方 継続率99%を超えるSmartHRに聞く
月次の解約率を継続して1%未満に抑えるSmartHR。サービス開始時点では2〜3%程度だったにもかかわらず、数値を抑えられた理由とは。CEOに戦略を聞く。 - 「身内に使ってもらうだけ」なB2B SaaSスタートアップにならない方法 ユーザー課題の正しい見極め方
B2B SaaSを立ち上げても、身内に使ってもらうだけではビジネスとして成立しない──こんな事態を避けるヒントは、業務に隠れた「ユーザーも知らない課題」にあるという。初期ユーザーの課題を見極め、入り口となる市場での局地戦に勝つ方法とは。 - 競合ひしめく営業支援SaaS市場で日本の後発企業が戦えるワケ 現場の声から見いだす勝機
米salesforce.comや米Microsoftなどの競合がひしめく営業支援SaaS市場を生き抜くマツリカ。2015年設立の後発企業にもかかわらずユーザーを獲得できている理由は、営業現場が抱えていた課題にあるという。同社が見いだした勝機とは。 - 年末調整で負荷急増、人事SaaSの悩みとどう戦う? “11月月初の憂鬱”に挑む企業のクラウドインフラ
タイムカード機能や年末調整用の書類を集める機能を備えた人事向けSaaSを提供するラクラス。年末調整を控える11月月初に負荷が集中する課題を抱えていたが、各サービスのデータベースや提供基盤をフルクラウド化して解決したという。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.