Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第1回) 「矢崎Engadget」はいかにして生まれたのか(4/4 ページ)
Engadget日本版最後の編集長となった矢崎飛鳥さんと西田宗千佳さんとの対談を3回に分けてお届けする。今回はその第1回、
IttousaiとEngadget
西田 そこで、実は個人的にずっと聞きたかったことが1つあって。
「Engadget」というメディアって、僕は、昔ものすごく好きだったかというと、内容は好きだったけど表現は嫌いだったのね。言ってしまえばそれは個人のメディアだったから。
Ittousaiさんという個人のメディアだったから、彼のブログとしては面白いけれども、彼の表現としてメディアで立ちすぎるのはどうなのかな、と思ってた時期があった。今は違うんですけど。
で、Engadgetを引き継ぐということは、極論すると、今もそうなんだけれども、顔としてのIttousaiさんのね、書きぶりとか、文体とかがあるわけじゃないですか。あと切り方とか。
そういうものをどう扱うか、ということと表裏一体なわけですよ。
あれを否定する必要はもちろんないし、否定したら成り立たない。
一方で、メディアとして大きくするためには、テイストというのをもっと「メディア然」としなきゃいけないわけじゃないですか。
そこをどう考えたのか。
矢崎 その課題は、以前の編集長、鷹木(創)編集長時代も、けっこう衝突してる問題で。
Engadgetはね、Ittousaiが2005年に始めたブログメディアで、USと数カ月も差がないぐらいのタイミングでIttousaiが始めてて。今、中国語版とUS版があるんだけど、その全スタッフの中でも、Ittousaiが最も古株になってるぐらい。
西田 あ、そうなんだ。
矢崎 日本は特にEngadgetイコールIttousai、というのが強くて。
Ittousaiが表現のひな型みたいなのを作ったんですよ。「Engadgetはこうあるべきだ」という決まりを作ったんですね。
そのフォーマットは社内wikiみたいなのにまとまってて、「基本的にはですます調である」とか、「こういった表現は使わない」とか。なんなら、最初は「広告も請けない」というレギュレーションがあって。Ittousaiが求めるクオリティのレギュレーションというのが明確に存在してた。
それを、完全に無視する形で、前編集長は、「やりたい表現はそのままやってもいいけど、このままだとサイト規模は大きくならない」と。
それは本当にそうだと思う。スピードと物量の時代、というのもあるから、Ittousaiには妥協してもらったんですよ。とにかく量を出そう、というような戦略に、鷹木編集長時代に変わって。
その路線が出来上がった後に私が入ってるので、Ittousaiは自分が考えるEngadgetの表現がもうできなくなった後だったんですよね。
西田 ああ、そうか。
矢崎 でもやっぱり、Ittousaiは、Engadget日本版は自分のものだ、という信念と情熱があるから……やっぱり、すごい衝突がよくあった。
なんなら、クロージングが決まった後でも衝突はある。
「誰々の記事を載せたくない」とか、「もうこのライターさんはお願いできない」とか、そういうこと。ものすごく我慢してくれるようになったけど、でも、クオリティに対してはこだわる。
まあでも普通は、そういうのって編集長が言うものじゃない?
西田 まあそうね。
矢崎 編集長ではなく、Ittousaiがそこはやっぱりすごく気にしてて。最後まで、彼は葛藤があったと思う。
でもまあ、その考えで、今のような広告モデルでやれてたかというと、それは絶対無理だったと思うから、鷹木さんの判断はまあしょうがなかったとは思うんだけど。
西田さんは本人をご存じですけど、この業界でも彼を見たことがある人、ほとんどいないんですよ。
西田 あ、そうかもしれないです。
矢崎 Engadgetは、まあ私も一部、すごく注目していただいてますけど、やっぱり一般の読者は多くの方が「Ittousaiはどうなっちゃうんだろう」みたいな話をしてる。
やっぱりEngadgetは彼のものだったんだな、というのをあらためてみんなで認識してますね。
西田 メディアでそう言ってもらえるのって、やっぱりそれは幸せなことで。なかなか、キャラクターを読者の側が大切にしてくれてるメディアってないですよ。
(続く)
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