検索
ニュース

PCの在り方をMicrosoftとIntelが規定した時代 PC 9x/200x System Design Guideとは何だったのか“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(2/5 ページ)

PCをその源流から辿っていく連載の第19回は、Hardware Design Guide、System Design Guideとは何だったのかという点について。

Share
Tweet
LINE
Hatena

MicrosoftがPCの仕様を決めた意義

 これはWindows 95を動かすために必要となるハードウェアの仕様をまとめたもので、Windows 95がMicrosoftの開発によるものだから、Microsoftがこれを出すのはまぁ自然と言うか、PCベンダーに対してそうした仕様を提示するのは当然なのだが、面白いのはこれがIntelと共著になっていることだ。要するにWindows 95を動かすためのハードウェア仕様を、MicrosoftとIntelが共同で決めた、ということになる。もっともこの時点では、例えばUSBは存在していないし、ACPIもまだ仕様策定の作業の最中であって、この時点ではAPMしかない。

 それどころかキーボードはPS/2に移行しつつもまだそれ以前のPCキーボードが広く使われていたし、マウスもPS/2マウスだけでなくBus Mouseが広く使われていた。プリンタはIEEE-1284(いわゆるCentronics interface)がメインで、例外的にSCSI接続プリンタとか変なものがあったりしたという具合。CD-ROM I/FもまだATAPIが出てくる前の話だ。もっと言うならば、そもそもPnP ISAがリリースされたのが1994年5月で、拡張カードのマーケットがゆっくりとPnP ISA対応に移行を始めようという時期だったから、「どこからどこまでのハードウェアをWindows 95でサポートするか」という話を決めるのは、PCベンダーだけでなく当のMicrosoftにとっても重要な話であり、こうした書籍というか仕様書が出てくることそのものはごく真っ当である。

 ただその仕様策定にIntelが全面協力していたというあたりに、この当時のWintelの結びつきの強さが見える。当時はまだIALが活発に活動を行っていた時期であり、MicrosoftとしてもこのIALの存在を前提に仕様策定作業を共同で行っていた、と考えるのが自然だろう。

 正直、“Hardware Design Guide for Microsoft Windows 95”に関して言えば、「Windows 95でサポートする既存ハードウェアを示すとともに、その仕様を改めて定める」以上のものではなかった。

 PnP ISAに関してはWindows 95で多少新機能が追加になっているから改定の部分もあるが、全体としてみれば新しいハードウェアの提案などは殆ど無い。まぁ考えてみれば当然の話であって、そうでなくても野心的なソフトウェアというかOSなのに、新しいハードウェアとか仕様を入れたら失敗待ったなしである。堅実に行きたい、というのは自然な流れであろう。

 だんだん変わっていくのは、これに続く仕様がリリースされてからである。

 このあとMicrosoftは、

  • PC 97 Hardware Design Guide
  • PC 98 System Design Guide
  • PC 99 System Design Guide
  • PC 2001 System Design Guide

を、相変わらずIntelと共著でリリースする。

 PC 97まではHardware Design Guideなのか、PC 98以降だとSystem Design Guideになっているのが興味深い。またこのPC 97 Hardware Design Guideも趣が深い。全体はPart 1(System Design Issues)からPart 4(Device Design Guidelines)+付録の構成だが、例えばPart 2を見ると、

  • Chapter 3 Basic PC 97
  • Chapter 4 Workstation PC 97
  • Chapter 5 Entertainment PC 97

という3つの章に分かれ、それぞれのPCの構成目的と必要な要素、オプションなどが定義されているという具合だ。

 ちなみにそれぞれのMicrosoftによる定義は、

  • Basic PC 97:全てのカテゴリーのユーザーに対し、機能と性能のベースラインとなる標準的なPC(Desktop及びMobile)。Basic PC 97システムは、Windows 95またはWindows NT Workstationで動作する、典型的なWindowsベースのアプリケーションを稼働させるためのものである。ただしBasicと言いつつも、これは従来のOS(≒MS-DOS)で要求されるものより、はるかに高い性能要件となっている。
  • Workstation PC 97:Win32ベースのアプリケーションで、グラフィックスや演算処理などの複雑な要求をサポートするために設計されたPC System向けの拡張コンポーネントの定義が追加されている。Windows 95またはWindows NT Workstationの稼働を前提にしているが、CADやEngineering Computing、ソフトウェア開発、コンテンツ開発などの複雑なアプリケーションに使用する場合は、Windows NT Workstationを利用することを前提にする。
  • Entertainment PC 97:ゲーム・教育・Personal Communication、Internet接続、ビデオ再生などに最適化された、Interactive Multimedia System向けの拡張コンポーネントの定義が追加されている。他のシステムとの機能の違いはGaming向けの3DとFull-motionのMPEG-2 Video再生を含む高度なグラフィックスとHi-Fi Audioのサポート、ホームステレオ、電話、VCR、カムコーダー、デジタル衛星システムなどの家電製品への接続など。

となっている。

 この定義にどこまで意味があったのか? というのは微妙なところだが、一応PC 99まではこれにMobile PCを加えた4つのPCが定義されていた。実をいうと、これに先立ちMicrosoftではSIPC(The Simple Interactive Personal Computer)という取り組み(というか、Initiative)を1996年に発表している。

 これは1996年のWinHECで発表されたもので、TVとPCの融合というか、PCをTVと同じような家電製品に位置付けるための取り組みで、当初は500ドル程度で提供できることを目論んでいた。このSIPCそのものは、もうちょい壮大な思惑もあったのだが、結果としてポシャったのでその話は置いておく。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る