データサイエンティストだけでAI開発を加速する「Light MLOps」 “エンジニア不要”のメリットとデメリット
データサイエンティストやエンジニアが協力し、AIの開発する手法「MLOps」が、いま注目を集めているが、プレイドではそれを独自に改良し、データサイエンティストだけで行うMLOps「Light MLOps」を実現したという。
AIや機械学習アルゴリズムの開発手法の一つである「MLOps」(エムエルオプス)という手法が、いま注目を集めている。ソフトウェア開発者と運用担当者がお互いに協力することで開発を迅速に進める取り組みや文化である「DevOps」の「ソフトウェア」の部分を「機械学習」に置き換えたものをMLOpsと称し、AIを自社開発する企業での導入が始まっている。
MLOpsでは、AI開発に関わるデータサイエンティストや機械学習エンジニアなどが連携し、AIの開発、運用を行う。そうすることで、複雑なワークフローを構築しても管理や自動化が容易になり、開発が加速化するなどの利点が生まれる。
ただし、企業の体制によってはこの実施が難しい場合もある。エンジニア側に工数が集中することもあれば、データサイエンティストが機械学習モデルの作成に集中できないこともあるからだ。
こうした課題を解決する方法として、「Light MLOps」を生み出したのがWebサイト分析のSaaSサービスを提供するプレイド(東京都中央区)だ。この方法はMLOpsをデータサイエンティストのみで行えるのが強みという。その詳細を、同社の春日瑛さん(Lead Analytics Engineer)がGoogle Cloud主催のイベント「Google Cloud Day: Digital ’22」で明かした。
「Google Cloud Day: Digital ’22」内のセッション「MLOps 再入門! Vertex AI で広がる MLOps の世界と実践例」(同セッションで公開したスライドから引用)
「データサイエンティストのみでやる」ことのメリットとデメリット
プレイドでは、Webサイトやアプリの訪問者を解析できるプラットフォーム「KARTE」を提供している。2月には、新サービス「KARTE Signals」の提供も始めた。これは、自社サイトを訪問する顧客について、KARTE上で集めたファーストパーティーデータをサイト内外で利活用できるというもの。同社では、KARTE Signalsの運用に、Light MLOpsを導入したという。
Light MLOpsを導入した理由について、春日さんは「機械学習モデルをスピーディーに本番環境へ導入したかったため」と説明。「通常のMLOpsに比べて大幅な工数削減を期待できるため、特にPoCフェーズで有効ではないかと考えた」と話す。
そこで春日さんが目を付けたのが、Google Cloudが提供するMLOps特化型プラットフォーム「Vertex AI」だ。Vertex AIには「Vertex AI Workbench」という機能がある。この機能では、データ分析や機械学習モデルの開発などをWebブラウザ上で行えるNotebook環境を提供している。これを使うことで、複雑になりがちなMLOpsのアーキテクチャの一部を置き換えれられるのではないかと考えた。
これにより、MLOpsアーキテクチャ上にある「データサイエンティストによるモデル開発フェーズ」「エンジニアに依頼し実装するフェーズ」「AIプラットフォームでの学習フェーズ」をVertex AI Workbenchに置き換えられ、データサイエンティストのみによるMLOpsが実現できたという。
複雑なパイプラインには現状向かず
一方、Light MLOpsには「GitHubでのコード管理や複雑なパイプラインを組む上で、不利な点がある」と春日さんは指摘。複雑なパイプラインでは並列処理を多用する場合があり、依存関係が複雑なものだと、Notebook単体での作成が難しいという。
「GitHubのコード管理に関しては、コードではなくNotebookを管理する形になるので、管理方法に工夫が必要になる」(春日さん)。複雑なパイプラインをどうやってLight MLOps上で構築するか。これがLight MLOpsの今後の課題だとした。
春日さんは「Vertex AIの機能にある『Vertex Pipeline』と連携させることで、Notebook同士の依存関係が記述できるようになり、複雑なパイプラインが組めるようになる。これにより柔軟な処理フローを構築できるため、幅広くLight MLOpsが適用できるようになるのでは」と展望を話した。
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