絵師の“AI学習禁止宣言”に意味はあるのか? AIに詳しい弁護士に聞いてみた(3/3 ページ)
AIイラストメーカー「mimic」の出現以降、Twitter上では自分の絵について“AI学習禁止宣言”をする人たちが現れている。このような宣言をすることで、AI学習への利用を禁止できるのか? AI領域の法務に詳しい柿沼太一弁護士に話を聞いた。
裁判では“人間が作った”という証明が必要に?
ではもし、実際にAIによる著作権侵害を訴える事例が出てきた場合、何が争点となるのか。権利侵害を主張する原告側は、元となる絵を自分が描いたことを証明し、それに依拠してAIが創作物を作ったことを主張する。訴えられた側(AI側)は、元絵は学習に使用していない、見たことがないと主張することになるのではないかと、柿沼弁護士は予想している。
注目すべきは、これまで元の絵は人間の創作物という前提だったが、今後は“AIが作った創作物”の可能性も出てくる点だ。柿沼弁護士は「AIが生成したものに対しては基本的に誰も著作権を持たないため、“AIではなく自分がつくりました”と原告側は証明しなくてはいけなくなる」とし、「創作過程や使用ツールなど自分が作ったと証明できる記録を残しておくことが大切になる」と説明する。
また、AIで誰でも簡単に他人の作品をまねすることが可能になり、かつそれが大量に出てくるとも予想。これまではまねをする側にもある程度の技術が必要であったが、AIで容易になることでそれが緩和される。一方、裁判になっても原告側の負担が大きいことから、事実上の泣き寝入りになるか、ネットで炎上するケースなどが増えるとも予測できるという。
「こういう問題が増えた場合、折り合いをつけるには法律の規定が変わる、もしくは裁判所が判断を積み重ねて基準を決めるかになる。このケースの場合、どのような場合に違法になるかと説明するのはかなり難しくなりそうなため、裁判での事例の積み重ねから判断していく流れになるのではないか」(柿沼弁護士)
法曹界では2016年ごろから、AIと著作権の問題についての議論が交わされていたが、あまり議論は盛り上がらなかったという。その理由を柿沼弁護士は「まだ先だろうと思われていたから」と話す。しかし8月に突如、Midjourney、Stable Diffusion、mimicと次々に画像生成系AIが注目を集めた。
「(法曹界では)慌てて話を進めている状態。今後は、全くAIを使わないイラストは少なくなるのではないか。この流れはもう止められないと思う」(柿沼弁護士)
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