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iPhone 14で注目集める「スマホと衛星の“直接通信”」 急速に実用化が進む背景とは(2/3 ページ)

アップルの新しい「iPhone 14」シリーズで、衛星通信に対応し緊急時のSOSを発信できる機能が備わったことが話題となったが、携帯電話業界でスマートフォンによる衛星通信はいま非常にホットなテーマとなっている。なぜスマートフォンに衛星通信が必要とされており、どのようにしてその実現を目指しているのかを、さまざまな企業の取り組みから確認してみよう。

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従来の衛星通信が抱えていた3つの課題

 携帯電話に衛星通信を活用し、世界中どこでも通話や通信ができるようにするというアイデア自体は古くからあるもので、1998年には旧イリジウムが衛星通信を用いた携帯電話サービスを提供し、世界中で通話ができるとして話題となったこともある。だが現状、衛星携帯電話の用途は、大規模災害発生時など非常時の活用や、地上の基地局からの電波が届かない船舶での通信など、非常に限定的だ。

 その理由は大きく分けると「コスト」「通信速度と容量」「端末」の3つにあるといえるだろう。まずコストについてだが、そもそも衛星を打ち上げ、それを運用するには非常に高いコストがかかるので、衛星通信は地上の通信よりも料金が高くなってしまう。

 また衛星は地上からはるかに遠い距離を飛んでいることから、直接通信するとなると時間がかかり高速通信を実現するのは容易ではない。加えて大雑把に言えば1つの衛星が地上の基地局1つ分に相当するのだが、衛星の数は地上の基地局と比べ非常に少なく、1つの衛星で非常に広い範囲のユーザーをカバーする必要があることから通信容量を増やすのも難しい。

 そして端末に関していうと、先にも触れた通り通常のスマートフォンに搭載できるアンテナはサイズも電波の出力も小さいので、遠く離れた衛星と直接通信するのは難しい。実際iPhone 14でも、衛星と通信する際はアプリの指示に従い、空が見える場所に移動して衛星の方向に端末を向けて通信を確立、その上で環境が良ければ15秒でメッセージを送付できるとしており、一定の手間がかかることが分かる。

 それゆえ従来、衛星と通信する端末にはり出力が大きく、サイズも非常に大きいアンテナを搭載するというのが一般的で、到底ポケットに入る大きさには収まらないというのが常識となっていた。そうしたさまざまなハードルが衛星通信の活用を難しくしていたといえるだろう。


衛星に直接接続するタイプの電話は、遠く離れた衛星と通信するため大型のアンテナを搭載しているのが一般的だ。写真はNTTドコモの可搬型衛星電話で、主として災害時などに活用されている

独自技術で多くの課題をクリアしたスペースX

 だがここ最近、その常識を覆す動きが相次いで起きている。その代表となるのが、実業家のイーロン・マスク氏がCEOを務める宇宙事業者のSpace Exploration Technologies(スペースX)だ。

 同社は地上により近い、「低軌道」と呼ばれる地表から高度2000km以下の場所に多数の衛星を打ち上げ「Starlink」という衛星群を確立。それを用いた高速インターネットサービスの提供に至っている。実際、Starlinkによる高速インターネットサービスは2020年からいくつかの国で提供を開始しており、とりわけロシア軍の侵攻でインフラに大きな被害を受けたウクライナで、Starlinkによるサービスを活用して多くの人が通信手段を確保したことは記憶に新しいだろう。

 多数の低軌道衛星を打ち上げて高速通信サービスを実現するというアイデアは以前からあったものだが、それを成功させる企業はなかなか現れなかった。だがスペースXは低コストで多数の衛星を生産し、打ち上げる技術を確立。1000を超える衛星の打ち上げに成功したことで、先に触れた衛星通信の課題の2つをクリアしてサービス提供にこぎつけられたといえるだろう。


Starlinkは1000以上という非常に多くの低軌道衛星を用いることで、従来の衛星通信よりも高速大容量な通信を実現している

 ただ現状のStarlinkによるサービスは、あくまで携帯電話の基地局とコアネットワークをつなぐバックホール回線としての活用にとどまっており、スマートフォンと直接通信ができる訳ではない。実際、日本でStarlinkのサービスを活用した通信サービスの提供を予定しているKDDIも、あくまで離島や山間部など、光ケーブルを設置するのが難しい場所でのバックホール回線として使うことを想定している。

 それゆえ端末に関してはまだ課題が残っているのだが、その解決に向けスペースXは新たな手を打ち出している。それは2022年8月25日、同社が独Tモバイルの米国法人(TモバイルUS)との提携により、衛星とスマートフォンが直接通信できる仕組みを提供すると発表したことである。

 これは米国内で2023年の実現を目指しているもので、まずはSMSなどテキストによるメッセージのやり取りができる仕組みを提供、その後音声通話やデータ通信なども実現していく予定とされている。日本より国土が広い米国では通信環境が整備されていない場所も多いだけに、メッセージのやり取りができるだけでも大きな意味を持つことは確かだろう。


スペースXのWebサイトより。同社とTモバイルUSは2023年より、米国内で衛星とスマートフォンが直接通信できる仕組みを提供すると発表。当初はテキストのやり取りに限られるが、将来的には音声通話やデータ通信も実現するとしている

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