電力不足にデータ分析とクラウドで挑む 大阪ガスが取り組む「仮想発電所」の裏側(1/2 ページ)
エネルギー不足にクラウドとデータ活用で立ち向かう大阪ガス。同社が取り組む「仮想発電所」と、それを支える新たなデータ活用基盤について、キーパーソンに聞く。
猛暑によって浮かび上がった電力の需給問題。夏の暑さは和らぎつつあるが、まだ安心できる状況とはいい切れない。2023年1月から2月にかけて、東京から九州エリアが10年に一度の厳寒に見舞われた場合、電力の安定供給に最低限必要な予備率3%を下回る可能性があると経済産業省は指摘している。
このエネルギー不足という問題に、クラウドとデータ活用で立ち向かう事業者が出ている。大阪ガスだ。同社は2020年、各地の発電設備などをIoT技術で制御し、一つの発電所のように機能させる技術「VPP」(Virtual Power Plant、仮想発電所)の実証事業を開始。一般家庭に設置しているエネファーム(家庭用燃料電池)をIoT技術でコントロールする取り組みで、21年には約3600台の制御に成功したという。
一方で、より多くのエネファームを活用したVPPを実現するには、蓄積されたデータから需要を予測し、その通り運転しなければならない。リアルタイムで顧客の動きを解析し、データを処理することも必要だ。つまり、大量のデータを高速で処理し、分析できる基盤が必要になる。そこで同社は米Googleのクラウドサービスを使って新たなデータ活用基盤を構築したという。
「人間ではなくシステムの判断精度がビジネスの成否を分かつようになる」──VPPについて、岡村智仁さん(DX企画部ビジネスアナリシスセンター所長)はこう話す。同社が取り組むVPPと、それを支える新たなデータ活用基盤について、詳細を聞く。
電力不足対策で期待されるVPP、ただし既存のデータ基盤では問題も
VPPとは、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー、企業や自治体などが所有する発電・蓄電設備、電気自動車などのエネルギーリソースをIoT技術で制御し、あたかも単一の発電所のように機能させる仕組みだ。喫緊の課題となっている電力不足や、自然の影響を受けやすい再生可能エネルギーの難点を補う手法として期待されている。
大阪ガスでは、岡村さんが所長を務めるビジネスアナリシスセンターがVPPのデータ分析に取り組んでいる。同センターはもともと、1990年代にデータ分析の専門チームとして立ち上がった組織で、数年前まではデータ分析による業務改善や意思決定の支援など、現場のサポートが業務の中心だった。
そのため社内にはデータ分析・活用が可能な環境も整っていたが、VPPはこれまでの取り組みとは少し違ったという。國政秀太郎さん(DX企画部ビジネスアナリシスセンターアーキテクト)は話す。
「VPPや設備の異常検知など、IoTデバイスから収集した膨大なデータの分析結果を直接システムの根幹に組み込み、サービスやオペレーションを自動化するようなプロジェクトが増えていた。いよいよ人間の力だけでは太刀打ちできない領域に足を踏み入れたのだと実感した」(國政さん)
マルチクラウドではスピード不足、オンプレではコストに課題
VPPを筆頭に、國政さんが話すようなデータ分析を実現するには、蓄積したデータから需要を予測し、その通り運転しなければならない。それだけではなく、リアルタイムで顧客の動きを解析・処理する必要もある。しかし、既存の基盤では実現が難しかった。
大阪ガスではこれまで、AWSやGoogle Cloudといったマルチクラウド上に蓄積されたデータから必要なデータをダウンロードし、加工・集計するといった処理をしていた。しかし、これではリアルタイムな分析は難しい。
とはいえ、オンプレミス環境に構築した既存のデータ基盤を使うわけにもいかなかった。大阪ガスがオンプレで構築した基盤は、業務データや契約管理などの蓄積を目的としたSoR(System of Record)や、顧客とのつながりを意識したSoE(System of Engagement)領域には、システム構成などの都合で不向きだったという。
オンプレ基盤にはコストの問題もあった。VPPの場合、現段階ではエネファーム約3600台分のデータだが、軌道に乗れば数万台分、もしくはそれ以上のデータを扱うようになる可能性がある。情報量を落とさず集約するには、サーバやストレージをどんどん買い足していく必要があるが、それは費用対効果の観点から実現が難しかった。
そこで同センターは、Google Cloud上に新たな高負荷データ分析基盤を内製で構築。これまでできなかったデータ分析を可能にしたという。
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