「バブルの終焉!?」市場が動揺したテンセントNFT取引所の閉鎖<中国NFTマーケット事情・後編>:浦上早苗の中国式ニューエコノミー(5/5 ページ)
2021年に中国で発行されたNFTは456万点、発行総額は約30億円。26年には市場規模が約6000億円に達するとの試算もある。成長を予感させるNFTマーケットだが、テンセントが8月にマーケットプレイスの閉鎖を発表。「ブームの終焉」が危惧されるなか、業界標準を制定する動きも出てきた。
業界標準制定の動き
中国のNFTが資産性のないデジタルアートの位置づけとはいえ、発行する側にとっては、話題づくり、ファン獲得、さらに収入源として大きな魅力がある。特にコロナ禍で苦境にあるエンタメ・観光産業では、NFTが貴重な収入源になっている。
現在は玉石混交の「石」が圧倒的に多いもの、NFTはメタバースの重要な要素であり、だからこそ業界団体や大手企業は自主的に市場ルールを整備し、政府と協調して産業の健全な発展を進めようともしている。
9月4日、中国で開かれたメタバース・デジタルエコノミーフォーラムでは業界標準に相当する「NFTルール評価准則」が公表され、NFTの定義、合法的な発行・譲渡のルールが明確にされた。
同標準は中国で発行されるNFTを「発行数が限られたデジタル形式の画像、音楽、動画、3D模型」「ブロックチェーン技術を通じて発行、購入、使用の流れが記録され、複製・改ざん不可能で永久に保存されるバーチャル文化プロダクト」と定義。法的には「デジタル出版物の一種の新しい形態」としてデジタル著作権、デジタル出版物の枠組みで解釈されるとした。
中国通信工業協会ブロックチェーン専業委員会も9月6日に「デジタルコレクション一般標準1.0」を公表し、中国のNFTの技術的定義、略語、原則などを定めた。同標準では、NFTマーケットプレイスの運営事業者はハードウェア、サーバ、データーセンター、クラウドなどを中国本土に設置することを求め、NFTのサイズ、著作権などの詳細も規定している。
中国メディアによると21年にNFT関連スタートアップ10社、22年には現時点で13社が資金調達を発表し、その数は増えている。しかし、調達案件のほとんどが数千万円〜数億円規模のエンジェル投資であり、最大手のテンセントはNFTへの投資をいったん停止。これらを併せて考えると、中国のNFT市場がどこに向かうか不透明な中で、「どうとでも動けるように有望技術やスタートアップはフォローしておきたい」というのが、今のIT業界のスタンスなのだろう。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
関連記事
- 仮想通貨禁止する政府、位置づけはグレーゾーン<中国NFTマーケット事情・前編>
Facebookが社名を「Meta」に変更して1年が経過した。この変化に中国のIT・金融界隈は敏感に反応し、企業が発行するNFTは奪い合いとなった。ただ、中国は「ブロックチェーン技術は推奨」で「仮想通貨は全面禁止」という政策を導入している。非常にあいまいな中国のNFTマーケットの現状を紹介する。 - Web3起業家はなぜシンガポールに向かうのか?
このところ、ブロックチェーン関連の起業家、今風の言葉でいえばWeb3起業家の日本脱出がしばしば言われる。その向かい先はどこかといえば、シンガポールだ。彼らはなぜ日本を脱出してシンガポールに向かうのか? - Coincheck NFTがPolygonチェーンのNFTに対応
コインチェックは10月5日、NFTマーケットプレイスの「Coincheck NFT」にて、新たにポリゴン(Polygon)チェーンに対応したと発表した。第1弾として、10月12日より、Polygonチェーンの「The Sandbox LAND」の取り扱いを開始する。 - 暗号資産の“電力問題”を解決? イーサリアム最大のアップデート「The Merge」を徹底解説
ビットコインに次いで世界2位の時価総額を持つ暗号資産「イーサリアム」に、大型アップデート「The Merge」が実装された。ブロックチェーン業界にどういう影響をもたらすのか。Gincoの森下真敬CTOが解説する。 - 「NFT」って知ってる? 認知率は30.8%、保有率は3.2%に MMD調べ
MMD研究所は、NFT(非代替性トークン)に関する調査結果を発表した。NFTの認知率は30.8%、「現在保有している」と回答したのは3.2%となった。 - デジタル庁「Web3.0研究会」開催へ NFTなど推進に向け環境整備へ
デジタル庁が「Web3.0研究会」を開催する。6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の方針に従い、NFTなどWeb3.0関連技術の推進に向け検討する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.