クラウド活用を妨げるのは“変化を嫌う文化”? SaaS導入が進まない中小の実態 事例を分析(3/3 ページ)
大企業に比べてクラウド活用が進まないといわれている中小企業。実際に中小に勤める人に話を聞くと、その実態が見えてきた。原因として考えられる「有識者の不足」「変化を嫌う文化」について、前後編で分析する。
「現状維持バイアス」の問題点 「茹でガエル」にならないために
ただ、そもそも人間は変化を嫌うといわれている。「現状維持バイアス」という言葉を知っているだろうか。平たく言うと「変化は現状の安定を“損失”するリスクがあるので“回避”したい傾向がある」というものだ。
「現状維持バイアス」で検索すると「いつも同じ定食を頼む」「転職しない」という例がでてきた。いつもと違う定食を頼んで「がっかり」したくない。転職して「今よりも環境が悪くなる」ことを恐れて現職を続けるのも同じ話だろう。
一度も転職したことがなく、マクドナルドではいつもビッグマックセットを頼む私も現状維持バイアスにとらわれているのかもしれない。友人の勤め先も、現状維持バイアスが強いのかなと思った。ただ、それを放置するのはやはりよろしくない。
ビジネスにおいて「現状維持バイアス」とセットで語られることが多いのが「茹でガエル現象」だ。「カエルは、いきなり熱湯に入れると飛び出すが、ゆっくりと水温を上げていくと温度上昇に気が付かず茹でガエルになってしまう」という作り話が由来だ。緩やかな環境変化に気が付き、リスクに適切に対応することの難しさを示している。
企業であれば市場の変化に合わせてビジネスモデルや会社の文化を変革する。個人であれば時代の変化に合わせてスキルアップをしていかないと「茹でガエル」状態に陥り、通用しなくなってしまうという話だ。
ビジネスにおいてITの重要性が非常に大きくなってきている現状において、少なくとも「PCを家のインターネット環境に接続し、デスクトップ上のバッチファイルをダブルクリックする」くらいはできないとマズいはずだ。一方で現状を甘んじて受け入れ、そのITリテラシーに合わせた施策を検討するようでは「茹でガエル」になってしまうのではないだろうか。
もし、自社の社員のITリテラシーが同様に低ければ、経営層は危機感を抱くべきだ。まずは社員のITリテラシーを向上させる施策に取り組んだ方がよいだろう。ゆで上がってしまう前に。
著者紹介:伊藤利樹
NTTデータのエンジニア兼、コンサルタント兼、ビジネスディベロッパ―。セキュアにクラウドを利用するソリューション「A-gate®」を企画・開発し、世の中に展開している。また、クラウド利用体制の構築支援をライフワークのように実施。クラウドの基礎知識から利用時に決めるべきこと、作るべき体制、守るべきルールを伝え、世の中のクラウド利用を推進している。『DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス』の著者の一人である。
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