オリオンビールがオフィス移転で直面した「サーバ置けない問題」 それでも数カ月でクラウド化できたワケ(1/3 ページ)
オフィス移転によってサーバ室が使えなくなる危機に陥ったオリオンビール。社内システムの移行先にはAWSを選んだが、作業時間は残り数カ月。タイムリミットが迫る中、それでも同社がクラウド化できた理由とは。
沖縄県に本拠を置き、国内第5位のビールメーカーとして全国に商品を展開するオリオンビール。オフィスの老朽化に伴い、2020年5月に沖縄本島中南部の浦添市から、南部の豊見城市に本社を移転した同社は、当時あるトラブルに直面していた。
「当社のシステムは長らく本社オフィス内にあるサーバルームの環境で運用してきた。しかし、移転先のオフィスではサーバ室を設置できず、サーバの運用を外部に委託せざるを得なくなった」
同社の溝口義純部長(経営推進本部ITソリューション部)は当時をこう振り返る。新しいオフィスは商業施設の中にあり、スペースの問題で新たにサーバ室を設けられなかった。しかし、このままでは社内システムを使えなくなる。
移転までの残り時間は数カ月程度。タイムリミットが迫る中、オリオンビールは社内システムをクラウドサービス「Amazon Web Services」に移行して対処することにした。どのようにして、この期間のうちにクラウド化を実現したのか。溝口部長と新里紹太さん(経営推進本部ITソリューション部主任)に聞いた。
災害対策、業務効率化、経営陣の理解……クラウドを選んだ3つの背景
そもそも、なぜオリオンビールは移行先にクラウドを選んだのか。理由は大きく分けて3つある。
1つ目は災害対策だ。オリオンビールは本社を沖縄に置いている都合上、台風による停電のリスクが大きい。名護市の工場にバックアップシステムを構築するといった災害対策を講じてはいたものの、浦添市の本社とはさほど離れておらず、災害対策としては心もとないのが実情だった。
「沖縄は台風による停電が多いが、そのたびにサーバ室の冷房施設が停止し、サーバもダウンしてしまうこともあった。こうした事態を回避して事業継続性を保つには、自社オフィス内でのサーバ運用から脱却する必要があった」(溝口部長)
2つ目は、そもそも物理サーバの運用がIT部門にとって負担になっていたからだ。
「もともとハードウェアの運用管理業務にかなりの手間を強いられていた。ただでさえIT部門は要員が少なく、業務効率化が求められていた」と溝口部長。当初はデータセンター事業者のハウジングサービス(データセンターのスペースを借り、自社でサーバを運用するサービス)の利用も検討したが、運用作業の効率化にはつながらないことから断念したという。
3つ目は、社内でITを積極的に活用する雰囲気が出来上がっていたことだ。19年に野村ホールディングスと米投資ファンドのカーライル・グループに買収され、オーナーが変わって以降、オリオンビールではITへの投資が活発化していたという。経営陣も含め、全社的にクラウド移行を目指していたことから、上層部の理解を得やすかった。
移行開始後にトラブル 「一部のシステムは32bit OS上で稼働」
数カ月という短い期間での移行を迫られたオリオンビール。とにもかくにも必要なのは作業時間だ。そこで同社はまず、本社移転後も旧オフィスのサーバルームをしばらくの間利用できるように手配し、移転作業の時間を確保。さらにSIerのリウコム(那覇市)に協力を頼み、共同で作業できる体制を整えた。移行先にAWSを選んだのも、リウコムがAWSの知見を持っていたからだ。
こうしてリウコムの支援の下、20年7月にクラウド移行プロジェクトがスタートした。しかし、問題はプロジェクトが始まった後にも発生した。
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