「給与デジタル払い」の6つの誤解 Pay事業者の狙いは何か(2/2 ページ)
2023年春にも解禁される給与デジタル払い。これまで現金か銀行口座、証券口座に限定されていた給与の支払いが、「◯◯Pay」などの資金移動業者の残高にも可能になる制度変更だ。これまでにない変化で、誤解も出回っている。
Q 給与が強制的にデジタル払いにされるという不安も聞く。
A 「あくまで多様化のための制度。ニーズに合致する人が使ってくれればいい」と鷹取氏。
企業は、労働者が希望する方法で給与を支払わなければいけないのが基本だ。給与デジタル払いが始まると、各Pay事業者が給与振り込み先となることを狙って、企業側に働きかけることもあり得る。しかし、だからこそ企業側が支払い方法や支払先を指定することは厳しく禁じられるだろうと鷹取氏は見る。
現在は、企業側が「◯◯銀行に給与振り込み口座を開いてください」というお願いが横行しているが、同じ理由でこれも難しくなるだろう。
KyashのようなPay事業者から見ると、「銀行とイコールフッティング(同一条件)にしてほしい」(鷹取氏)という思いがある。結果的に、これまで慣習的に実質指定となっていることも多かった給与の支払い先は、労働者側が自由に選択できるようになりそうだ。
Q Kyashも含めたペイ事業者は、給与デジタル払いに何を期待しているのか。
A 「ワンストップで総合的な金融サービスを提供するときに、給与デジタル払いが意味を持ってくる。これまではまず銀行にお金が入って、そこからペイ事業者のような資金移動業にお金が入ってきた。この順序が逆になることはあり得る」(鷹取氏)
これまでの金融は、銀行、証券会社と縦割りで分かれており、お金の流れも分断されていた。例えば、証券会社の事業上のハードルの1つは、いかに顧客に入金してもらうかだ。各資金移動業者は、これをシームレスに統合することを狙っている。
そのためには、お金の最初の入口となるポジションを押さえることが重要だ。いったんペイ事業者の口座に給与が入金され、そこから預貯金として貯めておきたいお金は銀行に送金するという世界を、Kyashでは描いている。
Q 資金移動業者には滞留規制があり、顧客から預かったお金は速やかに外部に送金しなくてはならない。決済目的であれ、規制の意図としては銀行の代わりにはならないのではないか?
A 「資金移動業のサービスは、実質すでにかなり銀行口座的に使えるようになっている。これを禁じるのならば、給与デジタル払いは開始されないと思う。滞留規制は、貯めることを促してはいけないという趣旨だと理解している」と鷹取氏。
海外の銀行では、チェッキングアカウントとセービングアカウントの2種類がある。チェッキングアカウントとは、海外の銀行において給与振込や支払い、引き落としなどに使用する決済用の口座のことだ。利子は付かないが少額なことが多い。一方のセービングアカウントは、入出金が自由にでき、より高い利子が付く貯蓄口座だ。
「給与デジタル払いで解禁されるのは、チェッキングアカウントの領域」だというのが、鷹取氏の認識だ。
銀行の役割は、大きく決済・送金、そして預金、貸出だといわれる。このうち、貸出は貸金業のライセンス、決済・送金は資金移動業のライセンスで可能になっているが、預金については銀行しか行えない。
鷹取氏は、給与デジタル払いへの対応とともに「銀行口座でできるものは大きく引けを取らないように準備を進める予定。次は銀行振り込みや自動引落ができるようにしていく」と話す。まさに、銀行の一部を代替するチャレンジャーバンクを目指すということだ。
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