排便の音を聞いて“下痢”かを判定するAI 精度98%で特定 YouTubeなどからトイレの音350件を学習:Innovative Tech
米ジョージア工科大学に所属する研究者らは、トイレに設置したセンサーで排便の音を録音し、下痢かどうかを判断する機械学習モデルを提案した研究報告を発表した。コレラなどの腸に関する病気の早期発見に役立てたいという。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米ジョージア工科大学に所属する研究者らが発表した論文「The feces thesis: Using machine learning to detect diarrhea」は、トイレに設置したセンサーで排便の音を録音し、下痢かどうかを判断する機械学習モデルを提案した研究報告である。コレラなどの腸に関する病気の早期発見に役立てたいという。
コレラは、コレラ菌によって汚染された食物を口から食べることで胃で死滅しなかった菌が小腸に達し、定着、増殖して病態を引き起こす。一般的には数時間から1日以内の潜伏後、発熱はせず下痢を主症状として発症する。重症になると下痢に加え、嘔吐(おうと)やショックなどを発症する。
コレラは毎年数百万人が感染し、約15万人が死亡している。コレラの予防は、医療関係者が下痢の症例を早期に発見することに頼っているのが現状である。
この研究では、排せつ音から下痢を特定する手法により、コレラやその他腸の病気の早期発見を促進することを目指す。トイレに設置したセンサーの内蔵マイクが排せつ音を録音し、機械学習で音を分析して下痢の有無をランプで知らせる。
音の分析では、まず排便の様子を伝える音をスペクトログラムという画像に変換する。音とスペクトログラムは、事象によって異なる特徴を持つ。例えば、排尿は一貫した音色を作り出し、排便は特異な音色を持つ。一方、下痢はよりランダムである。スペクトログラムの画像は、機械学習アルゴリズムに送られ、その特徴に基づいて各イベントを分類するように学習する。
研究者らはこの技術を、YouTubeとサウンドデータベースSoundsnapからの音(標準的な排便、下痢、排尿、鼓腸を網羅した350件のトイレに関する音)を用い、学習とテストを行った。
テストの結果、人の話し声などの背景ノイズを除去した場合は98%、背景ノイズを残した場合は96%の精度で、排せつ物を下痢性か非下痢性かに正しく分類できることが分かった。
今後は排便の音だけでなく、排尿の音にも注目し、病気のシグナルとなりうる異常な変化を予測することも視野に入れた研究を進めていきたいという。
Source and Image Credits: Maia Gatlin, David S. Ancalle, Anthony Popa, Ashima Taneja Cade Tyler, David Meyer, and David L. Hu Alexis Noel. “The feces thesis: Using machine learning to detect diarrhea”, The Journal of the Acoustical Society of America 152, A50-A50 (2022) https://doi.org/10.1121/10.0015504
関連記事
- おしっこの音をスマートウォッチで録音し、排尿障害を診断 スペインの研究チームが開発
スペインのデウスト大学とスペインのOsakidetza Cruces University Hospitalの研究チームは、患者が自宅で音による尿流量測定を行うための非侵襲プラットフォームを開発。スマートウォッチで、排せつ物が便器に衝突する音を記録して、体の診断に使う。 - 勃起を監視するコンドーム型デバイス ペニスの長さと円周を測定、遠隔医療に活用
韓国の漢陽大学校とKorea Electronics Technology Institute、Daegu-Gyeongbuk Medical Innovation Foundation(DGMIF)による研究チームは、勃起前後のペニスの長さや太さ、曲がり具合を測定するコンドーム型ウェアラブルデバイスを開発した。 - 体内のブドウ糖を電気に変える埋め込み式薄型電池 米MITなどが開発
米マサチューセッツ工科大学(MIT)とドイツのミュンヘン工科大学の研究チームは、体内のブドウ糖(グルコース)を直接電気に変換できる埋め込み式の薄型ブドウ糖燃料電池を開発した。 - 心音から心不全を分析するAI 精度は最大100% 心臓病を早期発見できるアプリを開発へ
インドのUniversity of KeralaとスロベニアのUniversity of Nova Goricaによる研究チームは、デジタル聴診器と機械学習モデルで心不全の原因となる大動脈弁狭窄症を発見できるサウンドイメージング技術を開発した。 - 細長い触手たちを物に絡ませてつかむソフトグリッパー 米ハーバード大などが開発
米Harvard Universityと米MIT、ドイツのZuse Institute Berlinによる研究チームは、複数の細長い触手の集合体で物体をつかむソフトグリッパーを提案した研究報告を発表した。空気を送ると伸びた触手は丸まり、壊れやすいものや不規則な形状のものをつかむ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.