エサを与えると傷を自己修復するロボットの皮膚 “生きた菌”を混ぜて3Dプリンタで作成:Innovative Tech
スイスのチューリッヒ工科大学(ETH)に所属する研究者らは、生きた菌を混ぜて3Dプリンタで造形した、自己修復可能なロボットの皮膚の開発手法を提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
スイスのチューリッヒ工科大学(ETH)に所属する研究者らが発表した論文「Three-dimensional printing of mycelium hydrogels into living complex materials」は、生きた菌を混ぜて3Dプリンタで造形した、自己修復可能なロボットの皮膚の開発手法を提案した研究報告である。
【お詫びと訂正:1月18日午後2時15分更新:掲載当初のタイトルと引用論文に誤りがあったたため、それぞれ内容を修正しました。おわびして訂正いたします】
生きている菌の代謝活動により、印刷した造形物は水中の栄養素が提供されると自律的に成長して損傷場所を自己再生することができる。
今回造形したロボットの皮膚は、霊芝(レイシ、Ganoderma lucidum)と呼ぶキノコの真菌を充填(じゅうてん)させたハイドロゲルである。真菌は、キノコやカビ、酵母に含まれるもので、ここでは根である枝分かれした菌糸体を持つ真菌を活用する。細菌と異なり有性生殖して増殖することが特徴である。
今回使用する3Dプリンタは、よくある樹脂を熱して押し出すFDM方式(熱溶解積層法)ではなく、直接インクを積み上げるDIW方式を採用する。DIW方式は、FDM方式がノズルから押し出したインクを冷却で固まらせるのに対し、インク状の素材をそのまま積層する方法である。
生きた皮膚を作る最初のステップとして、ハイドロゲルに菌糸体を植え付けるところから始まる。これにより菌糸体インクが作られ、DIW方式の3Dプリンタに投入して印刷工程に移る。
インク内に分布する菌糸は、印刷したオブジェクト内の真菌細胞が相互接続したネットワーク(コロニー)を形成する。この場合、造形した形状内に格子状の構造が張り巡らされる。造形物内に根っこが張り巡らされるイメージである。
造形する形状は、後で菌に栄養を与えることを想定して、隙間を開けるためジェンガのように縦横交互に積み上げていく方法を採用している。
造形物は形状内で菌のネットワーク形成による成長(約20日)で強固になっていき、さらに幅2mmまでの切り傷であれば増殖によって治癒できる能力を持つ。ここでは栄養として水を与えている。
研究者らは今回造形した皮膚をロボットのパーツとして使用する応用を考えており、試作品でロボットグリッパーなどを作り実証している。
今後の課題として、印刷されたロボット皮膚にどのように栄養素を供給し、どのように老廃物を長期的に除去するかについて、さらなる開発が必要であるとしている。
Source and Image Credits: Gantenbein, S., Colucci, E., Kach, J. et al. Three-dimensional printing of mycelium hydrogels into living complex materials. Nat. Mater. 22, 128-134(2023). https://doi.org/10.1038/s41563-022-01429-5
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