AIは日本のテレビから何を学ぶか?:清水亮の「世界を変えるAI」(2/2 ページ)
前回、身の回りにある「日本的な風景」を学習させてみた。その結果、郵便局がより日本的なものになったり、自動販売機や駐車場がよりそれっぽいものになることが確認できた。今回はそれを一歩進めて、AIに日本のテレビ番組を学習させてみることにする。
このように、日本的なニュアンスへの翻案に成功していることが分かる。
たかだか30時間、70万枚でこれだけ日本風に寄せられるのだから、より多くのデータを集めれば、もっと効率的にもっと効果的に日本風の画風を再現することは容易になるだろう。
ただし、「サッカーをする男の子」で出力させようとすると、まだまだ欧米のバイアスに引っ張られている。
これは、筆者がとりあえず見せた日本のテレビ番組のなかでサッカーをする男の子が登場するシーンが極端に少ないからではないだろうか。そもそもテレビには子役以外の子供というのは滅多に出てこない。ここも学習データで工夫が必要と思われるところだ。今後の課題としたい。
テレビは学習に最適?
『フィフス・エレメント』という映画で、長い眠りから目覚めたヒロイン、リー・ルーが、人類の情報を短期間に大量に学習し涙を流すというシーンがある。古くは米国ABCのドラマ『Max Headroom(邦題:未来テレビネットワーク23(NHK))』では、コンピュータ再構成された人格であるマックスが、テレビ局のコンピュータに寄生し、放映中のテレビ番組を見ながら同時にツッコミを入れるなんていうシーンもある。
テレビは、24時間近い時間軸で無数の番組が流れているという点で理想的な学習媒体であるといえる。しかも、映像と音声のマルチモーダルで、内容もニュースからバラエティ、ドラマ、教養番組など多岐に渡る。
もう1つの発見は、普通、30万枚も学習させたらオーバーフィッティング、つまり過学習が起きてボロボロになってしまいそうなものだが、ZelpmDiffusionでは安定して高画質なものが生成されている。
原理的にはWaifuDiffusionやtrinartなど、StableDiffusionの派生系も相当数の画像を追加学習させている。それで破綻していないということであれば、見せれば見せるほど画質が上がっていくことが期待できる。
筆者は新たに300万枚のアノテーションデータを準備中で、これを学習させればさらに効果的な結果が得られるのではないかと期待している。
なにしろ規模が大きいので個人プロジェクトの域を大幅に飛び越えてしまうが、さらに精度を上げるべく、独自のAI学習用データを作る方法も構想中である。これも結果が出たら、この連載で報告させていただきたい。
まだ開発途上であり、荒削りではあるが、ZelpmDiffusionはひとまず筆者の運営するMemeplexのサブスクリプションユーザー向けに実験的に提供する予定である。
筆者プロフィール:清水 亮
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。2005年、IPA(情報処理推進機構)より「天才プログラマー/スーパークリエイタ」として認定。株式会社ゼルペム所属AIスペシャリスト。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。
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