請求書に独自レイアウトは必要なのか 無意味なだけでなく有害?
請求書作成サービスで、「顧客からの最も多い要望が、請求書の複数レイアウトパターン」なのだそうだ。しかし請求書に、独自のレイアウトは必要なのだろうか?
freeeは、インボイス制度に対応した請求書を作成できるサービス「freee請求書」の無償提供を、2022年12月に始めた。特徴の一つは、50種類以上に及ぶ請求書のテンプレートを用意したことだ。
freeeの担当者によると「顧客からの最も多い要望が、請求書の複数レイアウトパターン」なのだそうだ。さらにロゴと社判についてのリクエストも多く、freee請求書では1ピクセル単位でロゴや社判の位置を調整できる機能も盛り込んでいる。
取引先に送る書類だから、少しでもイケているデザインにしたいという気持ちは分かる。特にデザイン関係の会社からは、オリジナルデザインの請求書を発行できるようにしてほしいという要望も多いという。
しかし請求書に、独自のレイアウトは必要なのだろうか? いまや請求書もデジタルの時代だ。Sansanなどは顧客に代わって請求書を受け取ってデータ化するサービス「Bill One」を提供しており、もはや受け取った請求書を顧客が見る必要さえない。
請求書の社判の印影についても、「実際に捺印したものでないと受け取れない」と主張した経理担当者も以前は存在した。そのためExcelで作成した請求書をいったんプリントアウトし、そこに社判を付いたあとでスキャン、PDF化してメールで送るという摩訶不思議な業務も存在した。いまや印影がデータでも気にする人はいないと思うが、ならばなぜ印影が必要なのかという疑問もわく。
請求書のこだわりレイアウトは、無意味なだけでなく有害では?
独自のレイアウトにこだわることは、無意味なだけでなく有害でさえある。
受け取った請求書は、OCRにかけられてデータ化するのが世の趨勢(すうせい)だからだ。OCRでは、まずどこに何の数字が記載されているのかを分析し、その後数字を認識していく。レイアウトにさまざまなパターンがあることで、OCRは無駄な認識をしなくてはならない。当然、精度も落ちる。
いっそのこそ、デジタル庁あたりが音頭をとって、請求書のレイアウトを共通化したほうが、デジタル化は着実に進展するのではないか。さらに請求書の項目を標準化しXML化して、それをQRコードとして印刷するようにすれば、OCRの手間もいらなくなる。
どうせPDFをメールで送るのだから、メールにそのXMLを添付すれば簡易にデジタル化が進む。もともとは何がどの数字なのかの情報を持っているのに、PDFに変換した時点でその情報が失われる。そこで受け取ったPDFからOCRで再びデジタル情報に戻すという、摩訶不思議な現状から一歩進むのではないか。
デジタル庁が推し進める電子インボイス規格の「Peppol(JP PINT)」に比べれば、本人認証もされない中途半端なものではあるが、少なくとも導入は容易だ。まずはデジタルデータをデジタルのまま送るところから始めてみるのも良いのではないかと思うが、どうだろう。
そんなことを思いながら、紙の請求書をやり取りするという商習慣は、デジタル化が進む中でもそうそう変わらないものだと実感した次第だ。
関連記事
- インボイス制度の負担軽減措置の詳細は? 財務省がFAQを公開
財務省は1月20日、10月から始まるインボイス制度における、中小事業者向けの負担軽減措置についてのよくある質問と回答(FAQ)を公開した。 - 請求書受け取りSaaSでチェックすべき3つの観点 sweeep、バクラク請求書、invox、Bill Oneを比較する
社会変化の中でここ数年の進化が目覚ましいのが、受け取った請求書を処理するSaaSである。今回は受取請求書SaaSを「OCR特化」および「OCR+オペレーター入力補助」の2つに大別した上で、それぞれ2つずつ、計4つのSaaSを取り上げる。 - 無料でインボイス請求書を作れる「freee請求書」スタート 電帳法にも一括対応
freeeが、インボイス制度に対応した請求書を作成できるサービス「freee請求書」の提供を始めた。これまでの請求書よりも記載内容が多いインボイス(適格請求書)に対応すると同時に、改正電子帳簿保存法への対策にもなるとしている。 - デジタルインボイス規格が正式版に 民間20社がPeppol対応表明
デジタル庁は、デジタルインボイスの国内標準仕様のバージョンアップを行い、「Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0」(Peppol)として公開した。同日、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)はイベントを開き、請求書にかかわるITベンダー20社あまりがPeppol対応を表明した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.