YouTuberがコロナに感染してるか分析するAI 動画内の音声を解析 米国と英国の研究チームが開発:Innovative Tech
米国立衛生研究所(NIH)、英オックスフォード大学、米ノースウェスタン大学に所属する研究者らは、動画内の音声の変化を分析し、話者が新型コロナウイルス感染症に感染しているかどうかを検出する機械学習モデルを提案した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
米国立衛生研究所(NIH)、英オックスフォード大学、米ノースウェスタン大学に所属する研究者らが発表した論文「Digital Omicron detection using unscripted voice samples from social media」は、動画内の音声の変化を分析し、話者が新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)に感染しているかどうかを検出する機械学習モデルを提案した研究報告である。
コロナに感染すると、発熱や鼻水、せき、のどの痛み、味覚と嗅覚の異常、体のだるさなどの症状が生じる。またオミクロンの変種は、上気道に影響を及ぼすことが多く、咳やその他の呼吸器症状を伴わない音声変化をもたらすことがよくある。
今回は、一般的に行われる鼻腔または咽頭スワブを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による感染検出ではなく、音声変化による感染検出を試みた。
この研究では、オーディオクリップから音声の変化でコロナに感染したかを分類する機械学習モデルを提案する。音声サンプルは、YouTubeから取得したものをモデルの学習に用いる。そのままでは使えないため、無音時間や話し手以外の雑音を取り除くなどの前処理をしてから与える。
これらの音声サンプルには、オミクロンが流行っている時期にコロナが陽性であると自己申告した人の音声データが含まれ、同時に非オミクロンのコロナの変種や他の上気道感染(風邪やインフルエンザ、鼻炎、扁桃炎、咽頭炎、喉頭炎など)、健常者も含まれる。
具体的には、オミクロン変異型が流行っているときにコロナに感染したと答えた人が183人(28.39時間)、オミクロン以前のコロナ感染者120人(22.84時間)、コロナではない上気道感染にかかったと答えた人が138人(8.09時間)、どの呼吸器感染にもかかったことがないと答えた人が192人(33.90時間)である。
得られたデータセットを用いて、音声の変化からオミクロンを検出するDenseNetモデルを学習させた。
学習済みモデルでテストした結果、次の通りになった。オミクロンを健常者と区別する特異度(感染していない人を正しく感染していないと識別する確率)は85%、感度(感染している人を正しく感染していると識別する確率)は80%であった。
さらにオミクロンと上気道感染とを区別できるかテストした結果、特異度74%、感度70%で識別できると分かった。つまり、インフルエンザなどの他の呼吸器系症状とオミクロンを区別できたことを示し、オミクロンに感染した人は特有の音響マーカーが含まれていることを示唆した。
Source and Image Credits: James T. Anibal, Adam J. Landa, Hang T. Nguyen, Alec K. Peltekian, Andrew D. Shin, View ORCID ProfileMiranda J. Song, Anna S. Christou, Lindsey A. Hazen, Jocelyne Rivera, Robert A. Morhard, Ulas Bagci, Ming Li, David A. Clifton, Bradford J. Wood. Digital Omicron detection using unscripted voice samples from social media
関連記事
- 話し方で「飲みすぎ」か分かるAI 12秒の会話で酩酊状態を特定
オーストラリアのLa Trobe UniversityとDeakin Universityに所属する研究者らは、12秒間の発話に基づいて個人の酩酊(めいてい)状態を予測できる機械学習モデルを提案した研究報告を発表した。 - サッカーのPKでどこに蹴るかを予測するAI 東大が技術開発
東京大学情報理工学系研究科と東京大学先端科学技術研究センターに所属する研究者らは、サッカーのPK(ペナルティーキック)において、蹴る方向を予測する機械学習モデルの開発した。 - 排便の音を聞いて“下痢”かを判定するAI 精度98%で特定 YouTubeなどからトイレの音350件を学習
米ジョージア工科大学に所属する研究者らは、トイレに設置したセンサーで排便の音を録音し、下痢かどうかを判断する機械学習モデルを提案した研究報告を発表した。コレラなどの腸に関する病気の早期発見に役立てたいという。 - AIが生成した“偽音声”を見抜く技術 99%以上の精度で検出
米フロリダ大学の研究チームは、音声生成モデルで作成された合成音声を見抜く検出器を開発し検証した研究報告を発表した。音声から声の通り道「声道」を作成して、その声道から人の音声か偽物の音声かを識別する。精度は99%以上だという。 - 感染者と10分会話でコロナを検出できるマスク 結果はスマホに通知 中国の研究チームが開発
中国のTongji Universityの研究チームは、感染者と10分間会話しただけで微量の新型コロナウイルス(COVID-19)を検出できるウイルスセンサー付きマスクを開発した。空気中に漂うウイルスを検出すると、スマートフォンにその結果を通知してくれる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.