“生徒1人にPC1台”で終わりじゃない さいたま市が描く「GIGAスクールの先」(1/2 ページ)
「GIGAスクール構想」の先を目指し、Azure導入とデータ活用の仕組み作りを進める埼玉県さいたま市。取り組みの全容を教育委員会のキーパーソンに聞く。
「生徒1人1台のPC」を目指す文科省の「GIGAスクール構想」が一段落し、教育のIT化が動き始めた。同時にネットワーク環境の整備やデジタル教材などの活用も進み、児童・生徒からデータを収集できる下地が整ってきた。中には、集めたデータを活用し、教育や先生の働き方改善などに役立てようとする動きも出始めている。
市内に計164校の小学校、中学校、特別支援学校を抱える埼玉県さいたま市も、データ活用による教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指す自治体の一つだ。同市は22年10月、システム開発事業者の内田洋行(東京都中央区)含む4社と事業連携協定を締結。クラウドサービス「Microsoft Azure」を使い、164校の利用を想定したデータ収集・活用の仕組みを構築している。
「他の業界では、極論すればボタン一つで相手の反応が確認できる時代。しかし、子供たちの実態把握は、現状では直感的なもので判断せざるを得ない。一方で子供たちは多様化している。そんな中、エビデンスなしで意思決定をしていいのか、というところから始まった」──同市教育委員会の大澤貴史さん(学校教育部教育研究所調査研究係 主任指導主事兼係長)は、データ活用のプロジェクトが立ち上がった背景についてこう話す。
2025年3月までの運用開始を目指すさいたま市のプロジェクト。その行き先と現状を、大澤さんや同教育委員会の片山賢さん(学校教育部教育研究所ICT教育推進係 主任指導主事)、内田洋行に聞いた。
特集:クラウドで進化する教育ICT改革
「生徒1人にPC1台」を掲げる「GIGAスクール構想」により教育のIT化が進み始めたが、教育現場の業務改善が本格的に始動しているとは言い難い。本特集ではクラウドによる業務改革に注目。教育現場を変えるIaaS・PaaS活用のヒントを探る。
児童・生徒のデータを“見える化” さいたま市によるデータ活用の全容
さいたま市が進めているのは、校務支援システムやクラウド型デジタル教材から児童・生徒のデータを収集し、Azureのデータ活用基盤で分析する取り組みだ。各データを整理した「ダッシュボード」にまとめ、教員が確認しやすいようにする計画という。
実現に当たっては、内田洋行以外との企業とも協力。米Microsoftのクラウドサービス「Microsoft 365」、ベネッセの学習支援サービス「ミライシード」、プログラミング教材「Life is Tech! Lesson」、内田洋行の校務支援システム「デジタル校務」や「L-Gate」を利用する。これらのサービスからデータを収集し、Azureで構築したデータ分析基盤に内田洋行が集約するイメージだ。
例えばMicrosoft 365は児童・生徒の健康や生活に関するアンケートを取るのに活用。デジタル校務からは、教員が入力した出欠情報や保健室の利用情報をなどを集める。ミライシードからはデジタル教材の利用状況などを収集。集めたデータをAzureで分析・整理し、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの「Power BI」を使って、ダッシュボードとして“見える化”する。
児童・生徒の授業満足度や理解度、成績、保護者からの連絡なども収集する想定だ。情報は学年やクラス、児童・生徒単位でまとめて「○年○組のダッシュボード」といった形で閲覧できるようにするという。これにより、教員が児童生徒の学習状況などを把握しやすくする。
現在はプロトタイプを開発し、一部の学校で試用・検証している段階。23年4月〜24年3月にかけて本番環境を設計・開発・テストし、25年3月までに小・中・特別支援学校164校での運用開始を目指している。まずは教員向けの提供を前提に、保護者や児童・生徒向けのダッシュボードも検討する方針だ。
「子供たちを本当の意味で見ていかないと」 取り組み発足の背景
さいたま市が今回のプロジェクトを始めた背景には、GIGAスクール構想の影響に加え、現状の教育への課題感があったという。
GIGAスクール構想の影響については「インフラ面ではGIGAスクールの環境が整ってきた。今後、これを使って教え方や授業、働き方をどう改革するかという視点で立ち上がった」と片山さん。実際、教育委員会の中でも「ネクストギガ」というイメージで話が進んだという。
一方、現状の課題点については「子供たちを本当の意味でちゃんと見ていかないといけない。教師のカンは当たるが、一方でどうしても抜け漏れが起きてしまうこともある。まずはそういったところを確認できるようにしていく必要がある」と大澤さん。
「ICTがこれだけ進んでいく中で、なぜ教育だけはデータを使わないか疑問だった。先生が意思決定するときのエビデンスや、子供たちのこれからの学びに使えるものとして、データは有効ではないかと考えた」(大澤さん)
教員の働き方改善の効果も見込んでいる。「どんな効果が出るかは先の話だが、紙やデータとしてちらばっていた情報を集約・可視化でき、先生が情報を把握・確認する負担は減ってくるだろうと思う。引継ぎやトラブルのとき、子供たちの状況を一元的に理解できると、情報共有が早くなる」(大澤さん)
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