クフ王のピラミッドに未知の空間、名大らが特定 破壊せずに“透視”した「宇宙線イメージング」とは?
名古屋大学大学院は、世界最大規模のクフ王のピラミッド内にある未知の空間の位置と形状を特定したと発表した。この成果は「多地点宇宙線イメージング」と呼ばれる技術によるもの。カギとなったのは宇宙線として降り注ぐ「ミューオン」と呼ばれる物質だ。
名古屋大学大学院は3月3日、世界最大規模のクフ王のピラミッド内にある未知の空間の位置と形状を特定したと発表した。研究チームは「シェブロン」という屋根のような石組み構造の背後に、2(幅)×2(高さ)×9(奥行)mの大きさの空間があることを明らかにした。この成果は「多地点宇宙線イメージング」と呼ばれる技術によるもので、その精度は数cm単位であるという。
クフ王のピラミッドは約4500年前に建造された世界最大規模の石造建築物。他の同時期に建造されたピラミッドに比べ、内部構造が複雑であるという。また、ピラミッド北側にはクフ王のピラミッドにしか見られない石組み構造「シェブロン」が見られるのも特徴だ。今回研究チームはピラミッドを破壊することなく、未知の空間の特定に成功した。そのカギとなったのが「宇宙線」だ。
人の目には見えないが、宇宙由来の素粒子は日々宇宙線として降り注いでおり、その一つに「ミューオン」と呼ばれる素粒子がある。これは厚い物質でも通り抜ける性質を持っており、研究チームはこれに着目。「原子核乾板」という素粒子検出器でミューオンを観測し、非破壊で厚い物体の内部の可視化に取り組んだ。これが「宇宙線イメージング」と呼ばれる技術だ。技術としては、X線を使ったレントゲン撮影に近いという。
研究チームはミューオンの観測によって、2016年と2017年にピラミッド内部の未知の空間を発見していた。いずれの空間もピラミッド外部からつながる通路は確認できておらず、現在も4500年前の構造を保っていると考えられるという。これらの空間の位置や形を解明するため、研究チームでは多地点に原子核乾板を配置、同時観測して立体的な位置情報を割り出す「多地点宇宙線イメージング」で空間の解析を進めてきた。
今回構造を特定した空間は、16年に発見したシェブロンの背後に伸びた通路上の空間で、19年に宇宙線イメージングを行ったものという。
高精度での空間構造の特定は初 クフ王のピラミッドの謎の解明に期待
研究では原子核乾板を、ピラミッドの入り口からを地下へ行く「下降通路」に4カ所に検出器を6つ、観光客向けの通路である「アルマムーンの通路」と呼ばれる場所に3カ所に検出器を4つ設置し解析した。下降通路側の検出器は、未知の空間の真下にあり、高解像度で空間の画像化が可能に。アルマムーンの通路側の検出器では、高精度で空間の長さや傾きを決定できるという。
下降通路を解析した結果、未知の空間の存在領域からおおよその位置と長さを推定できた。このデータを基に、ピラミッド内外を再現した3Dモデルでのシミュレーション結果と最もよく一致する各種パラメータを推定。結果、未知の空間はシェブロンの表面から80cm背後に2(幅)×2(高さ)×9(奥行)mの大きさの空間を持つと推定できた。
アルマムーンの通路を解析した結果、未知の空間は水平構造であると判明。この観測結果は下降通路側の結果と良く一致したという。
この結果について、研究チームは「われわれが知る限り、宇宙線ミューオンによる検出した空間構造の位置と形を数cmの精度で特徴付けた初めての成果」と説明。今回の成果は、シェブロンや17年に見つかった巨大空間の役割についての考察の発展など、クフ王のピラミッドの謎の解明につながることが期待できるという。
この研究成果は、英Springer Natureのオープンアクセス電子ジャーナル「Nature Communications」に3月2日付で掲載された。
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