日本AI界の“スター”が作った自動運転車に乗ってみた 創業から1年半で市販化 彼らの「無謀な計画」とは(4/4 ページ)
日本発の自動運転スタートアップが自社開発の運転支援システムを載せたクルマを試乗させてくれるというので、千葉県は柏の葉キャンパス駅に降り立った。
スタートアップがクルマを作る大変さ
Turingは業務委託も含めると50人の組織だが、9割弱がエンジニアだという。CEOが将棋の名人を破った「Ponanzaの山本氏」というスター性と、ロボットを自作しているような凄腕エンジニアをTwitterで見つけて直にコンタクトする、青木氏の積極的な採用活動もあり、若くて優秀なエンジニアが集結しているという。現在のエンジニア数は車体開発が6割、AI開発が4割ほどを占める。
日本のハードウェアスタートアップの経営者と話しててよく聞くのが、ビジネスにするハードルの高さだ。Turingも同じようで「実際やると本当にキツイ。無謀だなと思うし、奇跡が4〜5回起きないと普通に潰れちゃう」「シードで10億円調達したが、この会社ってお金を使う才能があって……業界に精通している試作機メーカーと一緒に車両を作る費用でも数千万円掛かるし、4〜5月から稼働する組立工場の設備を整えるだけでも億が飛ぶ」(田中氏)とのこと。人件費が最大のコストであるIT系スタートアップの比ではないという。
市販化にはリスクもともなう。「売るってすごく怖いこと。製造責任もともなうし、PL保険などにも入った。一定のリスクを負う覚悟がいる」(田中氏)
でも田中氏は「若いポジティブなエネルギーを正しくぶつけることができれば、何とか応援してもらえるのでは」と幾分か楽観的だ。「20年前だとできなかったベンチャーファイナンスを駆使していく。創業8カ月で10億の調達もできた」「そのダイナミズムを使っていく。それを一番うまくやったのがテスラ」(田中氏)。車両生産体制の構築を見据え、2023年中にシリーズAの資金調達を実施する予定だ。
同社が借りている実験走行用のレーンを見せてもらったが、ガレージには実験車両の他、殆どのパーツが剥ぎ取られて“裸”にされた日産のEV「リーフ」の姿もあった。自動車メーカーのEV車両をリバースエンジニアリングするために分解していたもので、すでに役目を終えたものという。3月末には自社EV車両のコンセプトデザインも披露しており、自社製造に必要なナレッジを蓄積中だ。
AIについては実世界を理解するため大規模言語モデル(LLM)の開発も発表。AIに“目”や”耳”を持たせることで、道路上の“文脈”を理解した運転が実現するとしている。また、LLMを通して実現可能性が高まっているのが汎用型人工知能「AGI」だ。あくまでも自動車メーカーを目指すTuringだが、AGIの開発に成功すれば、それを生かした別のビジネスモデルの可能性も見えてくるとしている。
まだ影も形もないTuringのオリジナルの自動運転EVだが、2025年に100台を発売する計画だ。最初はプレミアム性を重視して、スポーツタイプになるという。そして2030年には「その時点で法規面でOKかは分からないが」としつつも、ハンドルのない“完全自動運転車”を作るとしている。「自ら追い込んでいくスタイル。マイルストーンは大事」と田中氏は語った。
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