2040年には月面生活が実現? 科学未来館で特別展 宇宙開発の現状を監修者に聞いた
日本科学未来館は、月での生活を疑似体験できる特別展「NEO 月でくらす展」を4月28日から開催する。監修した惑星地質学者の佐伯和人さんに、展示へのこだわりや宇宙開発の動向を聞いた。
日本科学未来館は、月での生活を疑似体験できる特別展「NEO 月でくらす展」を4月28日から開催する。月面の長期滞在が可能になった2040年の世界を表現した展覧会で、民間月探査プログラム「HAKUTO-R」のランダー(月着陸船)の実寸サイズの模型なども公開している。監修した惑星地質学者の佐伯和人さんは「子どもたちが夢をもって、2040年の自分の姿を描いてほしい」と話す。
展示は月面とその活動拠点をイメージした2ゾーン構成。活動拠点ゾーンには、“月の食堂”をテーマにした展示があり、月で提供できる料理のサンプルが並ぶ。「月産じゃがいも入りキーマカレー」「月産野菜のフレッシュサラダ」などがあり、これらは月で栽培予定の食材から考えた献立だという。
活動拠点ゾーンには他にも「月面コンビニ」や「月面テレビ」など、月での日常生活を具体的にイメージできるような展示も。月面コンビニでは、月での暮らしに必要な衣料品や食料品などを並べており、一部の商品は実際に購入もできる。月面テレビでは、月面の注目スポットなどを紹介する散歩番組が放送されていた。
月面ゾーンでは、月面での活動を疑似体験できるコーナーを多数用意。例えば、ハーネスを付けた作業着を着て月の重力を疑似的に体感できたり、月の地中に埋まる鉱石を掘り出して水資源を探したり、コントローラーを動かしてローバー(月探査車)の遠隔操作を体験できたりする。
この中から、記者は水資源の採掘とローバーの遠隔操作を体験してみた。採掘体験では、レーダーを使って地中に埋もれた鉱石を検知し、スコップで掘り出す。その後、その鉱石にどのくらいの水分が含まれたのか解説してくれた。ローバーの遠隔操作体験は、コントローラーを通してモニター上のローバーを動かすというもの。いずれもゲーム感覚で気軽に体験できた。
月移住は「夢物語ではない」
月面開発といえば、宇宙ベンチャーispace(東京都港区)が26日、月探査プログラム「HAKUTO-R」で、月面着陸を達成できなかったと発表したばかり。同展では、HAKUTO-Rのランダーとローバーの実寸大模型や、HAKUTO-Rの概要や目的などのパネル展示も行っている。同展を監修した佐伯さんはispaceの発表について「着陸まであとわずかだった。ispace社の技術力を広く世界に示したことになる」と、その成果をたたえた。
佐伯さんは、立命館大学の教授を務めながら、JAXAの月探査計画にも携わっており、探査機に搭載するカメラの開発リーダーも担当している。佐伯さんは今回の展示について、各体験コーナーの再現度の向上に注力したとし、特に月面の重力体験にはかなり強くこだわったと話す。
月の重力体験では、宇宙服に着替えた参加者をワイヤと滑車で吊り上げ、低重力を表現。よりリアルな月の重力を体感してもらうため、改良を重ねたという。「月の重力は地球の約6分の1。月でジャンプする際、地面を踏み切ったときの速度は地球と一緒だが、加速度は6分の1になる。つまり、だんだんゆっくりになりながら6倍くらいの高さに飛ぶということ。“ゆっくり感”を出すのに苦労した」(佐伯さん)
今回の展示の時代設定は2040年。この展示の発表時点から17年後になるが、現実に月での長期滞在は実現できるのだろうか。「2040年には月の資源採掘プランができて実際に燃料が作られ、経済的にやりとりされる時代になると具体的にイメージしている。夢物語ではない」と佐伯さん。コロナ禍や世界情勢の影響を受けつつも、宇宙開発は加速しているという。
また、月の開発が進めば、火星への移住も可能性が高まるという。佐伯さんは「火星は少しでも大気があるので暮らしやすく、基地も作りやすい。ただすごく遠いというだけで、月より圧倒的に住みやすい。まず地球から近い月を開発して技術を高めて、本当に人が住む巨大な街を作るのは火星になるのでは」と宇宙開発の今後を見据えた。
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