AIの「学習」と「推論」って何が違うの? “ハコ”に例えてカンタン解説
AIの「学習」と「推論」は何が違うのか。この違いを押さえておくことで、AIに関する議論をする際にもポイントが分かりやすくなるはずだ。
生成AI、特に画像生成AIを巡ってはクリエイターの権利や利益と相反するのではないかと議論になっている。こうした議論では、例えば「学習に使われる著作物について許可は不要」などが挙げられる。しかしAIに詳しくないと「学習」が何を指すのか、近い文脈で「推論」という言葉も出てくるがこれは学習と何が違うのか、などがよく分からないという声もありそうだ。
ここではAIの「学習」と「推論」について分かりやすく説明してみたい。ここでキーワードとなるのは「ハコ」である。
この違いが分かれば、議論するべきポイントもよりはっきりするはずだ。
AIはハコである(現状では)
y=x^2(xの2乗)という数式があったとする。このxに2を入れるとyは4、3を入れると9になる。このように「ある入力をする」と「ある出力を行う」ものを「関数」というのは、中学数学で学ぶことだ。この例は二次関数だが、一般的な形に置き換えると「y=f(x)」となる。
ところである程度上の世代、あるいは数学に詳しい人の場合、「関数」ではなく「函数」と書くことがある。「函」の字は函館市や青函トンネルなどに使われている通り、「ハコ」と呼んだり「カン」と呼んだりする。
つまり関数(函数)は「数のハコ」であり、ハコの中に何か数字を入れて取り出す(出力する)とまた何かの数字になっているのだ。y=f(x)ならf(□)というハコにxを入れるとyが出てくる、というイメージ。
現状のAIはハコだと思っていい。「ChatGPT」などのチャットAIを使っているとずいぶんと流ちょうな答えが返ってくるから、あたかも人間のように捉えてしまいがちだが、質問文という名の入力をこのハコに入れると応答文という名の出力が返ってきているだけだ。AIは人ではなくハコなのだ。
ハコを作るか、ハコを使うか
AIはハコであるとすれば、学習と推論の違いは明確だ。「ハコを作る=学習」であり、「ハコを使う=推論」となる。
ChatGPTでいえば、良い出力をさせようと入力文を工夫するのを「プロンプトエンジニアリング」と呼ぶが、これはあくまでハコを使っているだけであって、ハコ自体に変化を加えているわけではない。「StableDiffusion」などの画像生成AIも同様で、良い画像を出力するためにプロンプトやパラメーターを調整するのもハコを使っているだけだ。
一方、開発企業の米OpenAIは「GPT-4」という新しいハコを作ることで既存のハコ(GPT-3.5)より性能を上げている。画像生成AIなら新しい画像生成AIモデルがハコであり、ほとんどのモデル制作には学習が関わっている。
学習も推論も、文章やイラストなどを入力する点は同様だが、ハコ自体を作ったり改良したりする行為が学習であり、作ったハコを使う行為が推論なのだ。
人間であれば日常的に見聞きした内容から推論もすれば学習もするのだが、現状のAIはいまのところはそういう仕組みになっていない。
ほとんどの一般的なユーザーがAIを使って体験しているのは「推論」の部分であって、「学習」にはデータの供与こそあれど基本的には関わっていない。AIに学習させるのは普通は開発者だ。
議論するべきはどの行為か
著作物利用などAIの問題について議論する際は、「ハコの作り方」が問題なのか、「ハコの使い方」が問題なのか、あるいはその両方なのかを考えると、議論の解像度が上がるのではないだろうか。
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