どこもかしこも“Vlog強化” ここまで「Vlogカメラ」が増えた理由:小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)
Vlogカメラの先駆者は、ソニーだと言っていいだろう。2020年6月に、「VLOGCAM」と銘打ったカメラ「 ZV-1」を発売した。今回、デジタルカメラ市場でトップシェアのキヤノンがいよいよVlogへ向けて動き出したことで、改めてカメラ市場の一角にVlogというエリアがあるということが、広く認識されることになった。
Vlogのシネマ化
ソニーとしては、デジタルシネマカメラはプロ用のCineAltaシリーズがあるが、その下にCinema Lineカメラとして、FX6、FX3、FX30、FR7をラインアップしている。Cinema Lineのカメラはαレンズが使えるので、αファミリーという位置付けでもある。
そもそもαの中でも、α7Sシリーズで動画を強化していった流れと、CineAltaが下流へ向かう流れが合流して、Cinema Lineになったという理解でいいだろう。
一方VLOGCAMでもレンズ交換式モデルはαレンズが使えるので、これもαファミリーである。Cinema Lineへの流れと違い、VLOGCAMはどちらかといえばビデオカメラ寄りという認識だったのだが、ZV-E1以降、映像をシネマっぽく撮る機能が強化されている。
これは、Vlogをビデオっぽい画質で撮るのはイケてない、もっと「バエ」が意識された結果なのだと思う。つまりVlogカメラユーザーはなにもLog撮影してカラーグレーティングするようなデジタルシネマが撮りたいわけではなく、写真のような「バエ」を動画に求めた結果、「シネマ風の絵」に到達したというわけだ。
以下にαシリーズに搭載されてきたシネマ撮影機能をまとめてみた。カメラのグレードや世代によって実装に違いがあり、全ての機能が1台のカメラに乗っているわけではないが、年を追うごとに強化されていったプロセスが分かる。
αにはピクチャープロファイル(PP)というプリセット機能があり、この中にシネマ風に撮れるプロファイルがある。もともとデジタルシネマとは低予算映画の代名詞だった時代があり、ビデオカメラ全盛の時代からすでに、こうした低予算制作に対応するため、シネマ互換モードみたいなものはあったのだ。
時代が進み、デジタルシネマが次第に映画制作のデファクト化していくと、αも上位CineAltaシリーズのサブカメラとして使えるように、S-Logで撮影できる機能が搭載された。遅れてFXシリーズで人気のあったS-Cinetoneが、αでも同じトーンで撮影できるようにと、この機能も降りてきた。
こうしたシネマ化機能の受け皿として、ピクチャープロファイルがどんどん拡張されてきたわけだが、2021年のフラッグシプ「α1」では、ピクチャープロファイルとは別の独立した機能として、10種類のルックが選べる「クリエイティブルック」が搭載された。とはいえこの機能は、フィルター的に映像のコントラストや色調を変更するもので、撮影解像度やフレームレート設定とは独立している。
そして今年ZV-E1では、さらに別の機能が追加された。「シネマティックVlog設定」は、このモードに入ることでフレームレートは24pに、画角はシネスコサイズ(2.35:1)にクロップされる。これは上下が黒でマスクされるだけで、ファイル自体は3840×2160である。
このことから、デジタルシネマフォーマットで撮るのではなく、シネマのように「見える」ことを意識した機能である事が分かる。
これらのシネマ化機能のポイントは、もはやデジタルシネマでは必須のHDRは意識されていないという事である。HDRコンテンツを作るならLogで撮るか、テレビ互換ならHLGで撮るかということになるが、後処理が必須であり、カラーグレーディングの知識が必要になる。そこをユーザーにやらせず、カメラ内で処理を完結するために、「SDRでシネマ風」というニッチな機能をここまで拡張させてきたわけである。
連日のVlogカメラの登場に、Vlogをやる人、いわゆるVloger人口はそれほど多いのかという疑問もあるだろうが、すでにビデオカメラという製品群が消滅した中、スマホのインカメラ以上のクオリティーで動画を撮影するというニーズをごった煮にしたワードとして、「Vlog」は機能しているのではないだろうか。
それは写真の世界がスマホ or フルサイズ標準になっていく中、カメラメーカーがもう稼げなくなったコンデジ、マイクロ4/3、APS-Cサイズの資産と知見を集約して、次の稼ぎ手に担ぎ上げたいという戦略も見えてくる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ソニー、レンズ一体型VLOGカメラ 「ZV-1 II」発売 「映える動画を手軽に」
ソニーは23日、ズームレンズ一体型のコンパクトカメラ“VLOGCAM” 「ZV-1 II」を発表した。ぼけ表現を生かし、「主役を引き立て、映える撮影が可能」という。
キヤノン「Vlogカメラ」投入 1インチ、超広角19mmレンズの縦型ボディ
キヤノンから、Vlogに特化したコンパクトカメラ「PowerShot V10」が登場した。スマートフォンのような縦型ボディで、誰でも手軽に動画ができる入門モデルとして販売する。価格は5万9950円、6月に発売予定。
フルサイズで世界最小・最軽量 ソニー、Vlogカメラ最上位モデル「ZV-E1」発表 ホワイトもある
ソニーは、フルサイズセンサーを搭載した新型ミラーレスカメラ「ZV-E1」を発表。YouTubeなどVlogに最適化した「VLOGCAM」シリーズの最上位モデルで、Eマウントによるレンズ交換に対応。ボディ内手ブレ補正を搭載したフルサイズカメラとして世界最小・最軽量(約483g)としている。
ソニー、広角単焦点レンズの新VLOGCAM発表 実売8万3000円前後
ソニーは13日、動画撮影に特化したコンパクトデジタルカメラ「VLOGCAM ZV-1F」を発表した。28日に実売8万3000円前後で発売する。
キヤノン、APS-Cミラーレス「EOS R10」投入 RFマウントのエントリー機 約12.8万円
キヤノンは、「EOS R」シリーズで初めてのAPS-Cミラーレスカメラ「EOS R10」を発表した。同社はR10と同時にハイエンドAPS-Cミラーレス「EOS R7」をお披露目している。

