Z世代が100歳になった未来 暮らしは? 死とは? 「SF」から本気で考えるパナソニックの狙い:SFプロトタイピングに取り組む方法(4/4 ページ)
Z世代が100歳を迎える2096年、人々はどのような暮らしをしているのか――そんな未来を「SF」を使って考えたのがパナソニックです。商品より前に考えることがあると語る担当者に、狙いを聞きました。
ビジネス現場で“妄想”を生む 未来を考える力を会社全体に
大橋 SF小説を活用したワークショップの成果はありましたか? 成果が出るには時間がかかると思うので難しいと理解していますが。
真貝 まだワークショップを体験した人が少数なので、会社として「こういう成果がありました」とはなかなかいえないものがあります。それでも目指しているのは明確です。今まで「商品をもっと良くしていきましょう」だったのに対し、「そもそも自分たちが大切に思っているものは何だろう」と考えることです。
イーロン・マスクのように「火星に行こう」というのはとっぴなことだとしても、われわれはそんな妄想ができるか? 普通のビジネスではそうした妄想はなかなかできません。ワークショップを通して、妄想しながら「こういう世界がいい」といえる能力を引き出していく。妄想することはできるのだけれど、ビジネスの場では慣れていないのでできないのだと思います。
ワークショップを通して、それができる社員が増えて欲しいという思いがあります。参加してくれた人たちも今までと違った脳みそを使い、刺激になったといっていました。
石田 普通のビジネスで先輩や上司に提案するとなると、自分の意見よりも賛成の意見を増やせるアイデアを出してしまう傾向があります。率直に感じたことを伝えられるツールとしてSF小説は使いやすいと思います。今は若手だけの議論ですが、経営層と議論するときに使えるともっと活発に意見を交換ができるのではないかと、SF作品を信じています。
大橋 今後も、SFプロトタイピングを活用していきたいとお考えですか?
真貝 そうですね。今回は家族の時間をテーマにSF小説を書いてもらいましたが、「こういうことを考えたいから」とテーマを出してSF小説を書いてもらい、深くSF小説に入り込んでもらって未来を考えるワークショップをさまざまな部署と一緒にやっていきたいと考えています。
石田 未来だけでなく過去にタイムスリップしたらどうなるかなど、自分が想像もしない世界に行ったとき、どういう発想ができるかをやってみたいですね。発想を変える、妄想を膨らませる発想法をこれからも考えていければと思っています。
大橋 過去も良いですね。僕は江戸時代に行ってしまったら、まず生きられないと思います。原始時代はもっとムリ。無人島脱出のTV番組を見ると、火を起こす、飲料水を確保することがどれだけ大変なことかがよく分かります。発想は変わると思います。
真貝 SFは物語を作っていく力が鍛えられると思います。未来の新しいことを考える力が会社全体に身に付いて欲しいと思っています。
石田 ツールとして漫画や動画がありますが、あえて小説にこだわった理由の一つが文字を読んで想像することでした。Z世代には動画や漫画の方が伝わりやすいといわれますが、あえて文章を読むことに注力して想像して欲しかったという想いがありました。
大橋 ありがとうございました。
パナソニックでは、SF小説を制作するプロセスではなく、SF小説を活用したワークショップに重点を置いている点に感銘を受けました。商品やサービスを考える前に、人々はどのような暮らしを送っているのかを考える。若い人は小説を読まなくなったといわれていますが、企業にとって小説を深く思考することも大切なことだと思いました。
SFプロトタイピングに興味がある、取り組んでみたい、もしくは取り組んでいるという方がいらっしゃいましたら、ITmedia NEWS編集部までご連絡ください。SFプロトタイピングを提供すると共に、この連載で紹介させていただきたいと考えています。
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