Z世代が100歳になった未来 暮らしは? 死とは? 「SF」から本気で考えるパナソニックの狙い:SFプロトタイピングに取り組む方法(3/4 ページ)
Z世代が100歳を迎える2096年、人々はどのような暮らしをしているのか――そんな未来を「SF」を使って考えたのがパナソニックです。商品より前に考えることがあると語る担当者に、狙いを聞きました。
「死とは何か」――商品を考える前に、考えなければならないこと
大橋 制作したSF小説はWebサイトで公開するだけでなく、社内外のZ世代と実施したワークショップでも活用されたのだとか。
石田 2096年の家族の中での死とは何か? について考えるワークショップを行いました。そこでの題材として樋口さんのSF小説「何もかも理想とはかけ離れていた」を使わせていただきました。樋口さんの作品を読んでもらえると分かるのですが、生と死がテーマの一つになっています。自分の今の生死観からどのように未来の死を考えるのか、Z世代が2096年に死を迎えるときどのような死の在り方が理想かを考えてもらうため、参加者にSF小説を読んでもらい1時間ほど議論を重ねました。
商品やサービスを考える前に、もっと考えなければならないことがあります。それは、「人はどこを目指すべきなのか」という概念です。その抽象的な思考を引き出すツールとして樋口さんのSF小説を使ったわけです。
「SF小説を読んで新しい商品やサービスを考えよう」ではなく、SF小説に入り込んで、そこで感じた想いに耳を傾けてもらう。違和感を覚えたのならなぜ違和感を覚えたのか、共感するならなぜ共感できたのか。本当に自分が大切にしているのは何なのかを考えてもらう。そこに気付いてもらう。そこから家族向けの商品やサービスはどうあるべきかと視点を変える。違和感や共感から商品やサービスを作るために、未来の世界の物語が使えないかと考えて取り組んでみました。
大橋 それは興味深いワークショップですね。
石田 違和感や共感は作品を読むと感じ取れることですが、ワークショップとして誰かと対話をする、自分が思っていることが共有できたのが良いポイントだと思っています。
参加者の一人は「自分が死ぬことを考えたら怖くて寝られない」と漏らしていました。そんな言葉は仕事場というか、ビジネスシーンで出てくることはありません。当事者意識を持った言葉が出てくるのがSF小説を使ったワークショップの良いところだと思いました。
このワークショップについては、パナソニックグループのライフスタイルメディア「q&d」で詳しいレポートを掲載しています。
大橋 死がネガティブなのかポジティブなのか分かりませんが、企業としてはあまり取り上げないテーマですよね。でも、死と生は表裏一体だから、死から生を考えることはできると思います。
真貝 死には物理的な死、つまり肉体が滅んでしまう死と、デジタルの世界での死は違うと思います。“物理人間”が死んでも“論理人間”は生きることができる。では、われわれの死とはどこからどこまでなんだろう。生きることを考えたとき、死をどこからどこまでと定義するかは考えないといけないことだと思います。
Aというサービスにアカウントを作る。別のBというサービスにアカウントを作る。このAとBは別人なのか? 事業と直接は結び付かないものの、未来研究の中では考えないといけないことがたくさんあります。家族の関係性以外にも食にフォーカスして考えてみるなど。未来ではみんな何を食べているのか、家族の食卓はどうなっているのか? そんなことをSF小説にダイブして想像してもらう。そんなこともできると思います。
東野圭吾「虹を操る少年」からアイデア発想 京都の庭園で
大橋 他にも一般の小説を活用してのワークショップも行っているとお聞きしました。
石田 東野圭吾さんの「虹を操る少年」を取り上げた事業部向けのワークショップも行いました。ポイントの一つとして考えていたのは、しっかりと物語の世界に入ってもらうことでした。参加者にしっかりと妄想して欲しいという気持ちから、時間をかけて物語の世界に入ってもらう取り組みを行いました。
真貝 そのワークショップは、京都市東山区の無鄰菴という日本庭園で行いました。国指定の名勝「七代目小川治兵衛作庭」で、山縣有朋の別荘だったところです。日常とはかけ離れた場所で2時間、じっくりと小説を読んで思索にふけってもらいました。
大橋 以前、NECさんとコニカミノルタさんがSFプロトタイピングを東京都の有楽町にあるプラネタリウムで行いました。日常を変えないと新しい発想は生まれないというのはよく分かります。
真貝 本当は、山の奥のWi-Fiも届かないところで1日こもってと考えたのですが、会社としてそれはどうかとなって(笑)。それでも携帯禁止や雰囲気は大事にすることは心掛けました。
大橋 どのような成果がありましたか?
真貝 虹を操る少年は、不思議な“光”である「光楽」に感応して集う若者たちの物語です。なぜこの作品を選んだのかというと、参加者が照明の事業部から集まっていたからです。“光”をテーマとした小説を読んで、その世界観を実現するには何が必要だろうと考えました。事業アイデアまで行かないにしても、今後、何を考えれば良いかの気付きは見えたと思います。
石田 光楽は“光”を操って演奏することでメッセージを発信できます。光を自由に操れるとしたら自分なら何をするかを2時間かけて議論し、それを文字とイラストに描いてもらいました。普段の仕事ではなかなか発想を飛ばすことができなかったことが深い議論をすることで飛ばすこともできたと思います。
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