国がスマホの「サイドローディング」を義務化したい理由 内閣府の担当者に直接聞いてみた(4/4 ページ)
日本政府が米アップルに対して義務化の方針を打ち出した「サイドローディング」。これが実現すれば、iPhone標準のアプリストア「App Store」以外からアプリを入手できるようになる一方、セキュリティ上の懸念が一気に高まるため義務化に反発する声は少なくない。サイドローディングに関する一連の疑問を関係者に直接ぶつけてみた。
なぜ決済の開放だけでは問題解決に至らないのか
またサイドローディングの義務化で、環境整備や外部アプリストアの評価といった負担増を理由にAppleが決済手数料を値上げしてくるのでは? という懸念を示す向きもある。
この点について成田氏は、実際にアプリストアを審査するかどうかはAppleの判断によるとした上で、「この枠組みはアプリ、そしてOSを提供する事業者が一義的にセキュリティやプライバシーを確保するために必要な措置を取るようにすることであり、それが実効的に利用できる状態なっているかを規制当局がチェックする」と回答。リーズナブルかつ合理的とは言えない方法で手数料を上げるようなことがあれば、何らかの指導をしていく考えのようだ。
そもそもアプリ開発者からは、手数料の仕組みが不透明で納得できないという声が非常に多く聞かれるという。それだけにアプリストアを審査する場合でも「どういうことをしているからこのような構造になっているのかをきちんと説明するプロセスが必要」と成田氏は話し、透明性を高めるようチェックが可能な仕組みを組み込むことが重要だとしている。
ただ、多くのアプリ開発者が不満を抱いているのはまさにApp Storeの手数料に関してである。なのであればサイドローディングを義務化しなくても、App Storeの決済手段だけを開放すれば済む話なのでは? という声も非常に多い。先のAppleとEpic Gamesの裁判においても、決済手段の開放は求められたがサイドローディングまで求められるには至っていない。
だが成田氏は、政府での議論の中でも決済手段の開放だけでは競争が進まないという結論に至ったと答えている。そのことを示しているのが韓国の事例で、韓国では2021年にアプリ内課金で特定の支払い方法を強制することを禁止、決済システムの開放がなされているのだが、Appleがさまざまな条件を付けたことで外部の決済システムを利用する際に26%の手数料が徴収されているため、手数料に対する競争圧力が実質的に働いていないという。
それゆえ手数料に関して競争を進めるには、やはりアプリストア同士での競争が必要と判断したとのこと。ただAppleが手数料でそうした姿勢を取るのであれば、同様にアプリストアに関しても何らかの抵抗をし、実質的にApp Store以外の利用をできなくするなど有名無実化を図る可能性も十分考えられるのではないだろうか。
そこで成田氏が重要だと話すのが国際的な協力体制である。先に触れた通り、他の国々でもモバイルプラットフォームに対する課題を認識しており、法整備を進めている所もあることから、そうした国々と意見交換しながら執行の部分で実効性のある取り組みができるよう、道筋を作っていきたい考えのようだ。
ただどこまでが競争阻害要因で、どこからがセキュリティの担保と判断するのかという線引きは非常に難しい。実際Androidはセキュリティ対策の一環から、Google Play以外からアプリをインストールする際には警告を表示し、承諾しないとインストールできないようになっているのだが、これまでAndroidのアプリストアに挑戦してきた外部の事業者は、警告によるユーザーの不安を解消できず撤退に至るケースが多かった。
この点について成田氏は、セキュリティについてはあくまで規制の枠組みの中でOSを提供する事業者が必要な措置を選んでもらうことが重要で、現在のAndroidの警告に関して規制は求めないと回答。その上で、もし警告が過度な場合は何らかの評価や議論をする必要が出てくるとしている。
そしてもう一つ、競争促進の観点からいうと、そもそもApp StoreやGoogle Playは既に多額の投資をして巨大なプラットフォームとなっており、手数料などで不満を抱く開発者がいる一方で、高い信頼を寄せる開発者もまた多いという事実もある。それだけにサイドローディングを義務化しても、これらアプリストアに対抗できる勢力が育つのか? という点に疑問を持つ人も少なくないと思う。
成田氏はこの点について、「現在のストアを想像して同じことができるのか? となると難しいが、我々が考えているのはそうではない」と回答。例えばゲームや子供向け、表現規制への配慮など、特定の分野に特化したアプリストアが登場し、そうしたストアがニッチな分野で強みを発揮してくることが、競争を生み出す源泉になると見ているようだ。
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