買えないSuicaカード、広がる「クレカのタッチ乗車」 Suicaの未来はどうなる?(5/5 ページ)
交通系決済システムの潮目が変わりつつある。Suicaカードの販売中止が長期化しつつある一方で、交通事業者でのクレジットカードのタッチによる乗車「オープンループ」の採用が続いている。今回は、Suicaカード販売中止に至る原因と、今後のオープンループとSuicaの関係の2つの項目について検証したい。
東急がオープンループを始める「真の狙い」
だが現在のトレンドは改札処理だけの話題にとどまらず、その先へと向かいつつある。その顕著な例は、間もなく東急が田園都市線で始めるオープンループの仕組みで、これは多くの人が思っている以上に壮大なプロジェクトだ。
開始時点では渋谷駅を含む田園都市線の全ての駅の改札口にクレジットカードとQRコードが読み取れる車椅子利用者向けの改札機を設置し、事前に購入した企画券をQRコードまたは登録済みのクレジットカードを使って改札を通過できるようになる。「なんだ、1日周遊券(企画券)だけなのか」という落胆の声もあったが、おそらくは東急がこのプロジェクトに込めた一番のポイントがここにある。
今回のプロジェクトでは東急電鉄のほか、不動産事業なども束ねる東急グループが含まれているが、「この企画券を使って人々がどのように動き回るのか」というのをデータとして集めることが狙いとみられる。
クレジットカードは鉄道乗車のみならず、周辺での買い物でも利用できるため、「ある人物がどう移動してどこで過ごし、どういった買い物や行動を取ったのか」という一連の流れが把握できる。東急カード利用時に割引などの特典を付けているのもポイントで、1枚のカードを元手にデータを収集することが可能だ。
もちろんデータそのものは匿名化されて個人を特定できないような形で分析に使われるが、従来のクレジットカードが買い物での商圏のみ、Suicaなど交通系ICカードが駅での移動しか把握できなかったことを考えれば、集まるデータの粒度はより高くなる。データビジネスやマーケティング分野で最も理想的なデータが集まる仕組みであり、これは既存の交通系ICカードにはない特徴だ。
おそらく、JR東日本はSuicaで同様のビジネスを実現したいと考えているのだろうが、オープンループが実現する世界には及ばないのが実際だ。
まとめると、公共交通での改札システムは実装技術の話題から、すでに次のステージにその視点が移っている。1枚のカードを軸にデータビジネスをどう進めていくかの主導権争いとなっており、「Suicaかオープンループか」という話は、どちらがそれをより効果的に実践できるかの話でもある。
【訂正:2023年8月30日午前11時00分】 Suicaカードの製造に関し、憶測のみにもとづく表記があったため、正確性の観点から該当箇所を削除いたしました。
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