「未来」って自由に発想するものじゃなかった? なぜ企業から“戦略的な未来”が出てきてしまうのか:SFプロトタイピングに取り組む方法(1/4 ページ)
企業が考える「戦略的でシナリオありきの未来」を「SF思考」で取り払う取り組みが広がっています。しかしSFの力をかりても、“おままごと感”が出てしまうことがあるといいます。その原因と解決策を探ります。
企業が未来を考えるとき、戦略的でシナリオありきだからイノベーションが起きにくい――こんな状況を「SF思考」で打破しようとする試みが登場しています。フィクションの力を借りて、柔軟な発想や自由なアイデアを育んでビジネスに生かすのです。
この取り組みは「SFプロトタイピング」と呼ばれ、ソニーや農林水産省など官民問わず広がっています。本記事の前編では企業がSFを活用する意義と実践ポイントを紹介しました。
しかし、いざSFプロトタイピングに挑戦すると「おままごと感」が出てしまうケースがあるようです。一方で“突拍子もない未来”を自由に考えるはずが、一体なぜなのでしょうか。その原因と解決策を、SFプロトタイピングを手掛ける企業ロフトワーク(渋谷区)とアーティストの石原航さんに聞きました。
こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語っていきます。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作するなどして企業のビジネス等に活用するメソッドです。
今回は、SFプロトタイピングの実施を支援するロフトワーク(渋谷区)の丸山翔哉さんとアーティストの石原航さん、そして僕の3人による鼎談(ていだん)でお届けします。
テーマは「SFプロトタイピングを効果的に行う方法」。SFプロトタイピングを実施する上で気を付けたいことなどを語り合いました。
ロフトワーク
共創を通じてWebサイトやコンテンツ、コミュニケーション、空間などをデザインするクリエイティブカンパニー。全ての人のうちにある創造性を信じ、さまざまな企業・組織の課題解決や新しい価値創出をプロジェクト型で支援している。
SFを使った未来の考え方 戦略型/天然型の違いは?
大橋 昨今、さまざまな企業がSFプロトタイピングに取り組み始めており、知見や傾向が少しずつ分かってきました。これから始める企業に伝えられればと思います。ロフトワークさんは、SFプロトタイピングの取り組みをどうご覧になっていますか。
石原 SFプロトタイピングを行う人には2タイプあると思うんです。戦略型と天然型です。
タイプ | |
---|---|
戦略型 | 前例などから一定の成果が期待できる既存のフレームワークやメソッドなどを計画的に取り入れて、それらの組み合わせから未来を考えようとする人。 SFプロトタイピングの民主化にあたっては重要な存在である一方で、フレームやメソッドなどの形にとらわれすぎてしまうと、それらを形骸化させてしまう可能性もある。 |
天然型 | 既存の手法や流行などはあまり意識していないが、自発的に取り組んだ結果、非常に未来的・SF的なアウトプットを生み出してしまう人。 既存のフレームでは出しにくく極めてユニークな未来観を作り出せるポテンシャルを持っているが、こういう人たちを意図的につくりだすのは難しく、この思考を民主化させるのも難しい。 |
石原航
アーティスト/ハッカー/imkp Lab. CSO
慶應義塾大学総合政策学部卒業、同学政策・メディア研究科博士課程を単位取得満期退学。「ありえるかもしれないインターネット」をテーマにさまざまな作品やシステムを制作・開発しながら、新しいアバター観やデジタルコミュニティーの可能性を思索・研究中。
総務省認定異能β(総務省公認のへんなひと)保持者。芸術や文化の祭典「Ars Electronica」の「 2019 Future Innovator」に選出。公益財団法人のクマ財団奨学クリエイター4〜5期生採択。
主な受賞歴に「WIRED Creative Hack Award 2021」準グランプリ、同賞 2018 特別賞、「Campus Genius Contest 2019」審査員特別賞など。
大橋 僕は天然型が好きですね。天然型のSFプロトタイピングをやりたい。けれど、大手コンサルタント企業がやっているのは戦略的SFプロトタイピングのように思うし、その方が理解しやすいのかもしれないです。
石原 天然型の方がピュアな感じがしていいですよね。フレームワークに依存していない感じがあって。そこがいいと思うんです。
戦略型でやろうとしすぎると、おままごと感がでてしまう可能性があります。これまでのデザイン思考でもそうだったのですが、いろいろなことがフレームワーク化して、浸透して、表面的なところをかいつまんで満足するということが起きがちです。
しかし、形骸化したフレームとSFプロトタイピングの本質とは真逆です。ホワイトボードに付箋紙をベタベタ貼ってもイノベーションは起きません。でも貼ったことで満足はします。そんな“おままごとワークショップ”になりがちなのは避けたいですね。SFプロトタイピングが普及していった時に、SFプロトタイピングに依存しないようにするにはどうすればいいんだろという問いは絶対にあるでしょう。天然型にはそれを打ち破るポテンシャルがあると感じていいなと僕は思います。
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