「未来」って自由に発想するものじゃなかった? なぜ企業から“戦略的な未来”が出てきてしまうのか:SFプロトタイピングに取り組む方法(3/4 ページ)
企業が考える「戦略的でシナリオありきの未来」を「SF思考」で取り払う取り組みが広がっています。しかしSFの力をかりても、“おままごと感”が出てしまうことがあるといいます。その原因と解決策を探ります。
ディストピアな未来像でも寛容に それがビジネスチャンスになるかも?
大橋 SFプロトタイピングを依頼するとき、気を付けなければいけないことはなんでしょうか?
丸山 「今すぐ新しいアイデアが欲しい」というのは、SFプロトタイピングですることではないということを分かっておくといいでしょう。
また、発想を自由にするとディストピア的な側面が含まれてきます。それが依頼する企業のビジョンを損ねてしまう可能性もゼロではないでしょう。それを理解した上でSFプロトタイピングをしないと「われわれが思っているビジョンと違う未来じゃないか」となってしまうこともあり得ます。SFプロトタイピングで未来を見ることに寛容な態度で依頼をするのが重要だと思います。
石原 ディストピアは、それを反語的に用いて「そうじゃない未来」を作るためのものとして活用できます。ディストピアも射程に入れ、「違う未来ができることが重要なんですよ」ということをきちんと企業の人に説明できないといけません。
例えば今はSDGsがビジネスになる時代です。それは50年前に考えることができたかというと難しかったと思います。仮に50年前に未来を考えたとき、「エコロジーがビジネスになる」と想定できた人はほとんどいなかったはずです。大量消費が当たり前だった高度経済成長期に、エコが重視される未来というのはある意味でディストピア的かもしれません。ディストピアとしてSFプロトタイピングをしていたなら、ビジネスチャンスになっていた可能性もあります。
必ずしもポジティブな未来像ばかりが有益な未来につながるわけではない、というところを意識はしてほしいとは思います。
大橋 昔の漫画雑誌には口絵というグラビアページがあって、「未来はこうなる」とよく特集されていました。1965年には「未来の大事故」として「隕石におそわれた宇宙船」が掲載されています。それってまさに今のスペースデブリの問題です。他にも自動車の未来を考えたら、地球温暖化で海面が上昇するため、移動は車ではなく船になるかもしれません。クライアントが自動車メーカーなのに、自動車の未来が船になったら「どうしたらいいんでしょう」となってしまう。未来を考えていたら今のビジネスに未来はないとなるかもしれません(笑)。
石原 自分で未来を考えられる人は、企業からいなくなってしまう。そういう人を企業研修で育てると、みんなどこかに行ってしまう可能性がありますね(笑)。
大橋 「うちの会社に未来はない」が結論になってしまいます(笑)。
丸山 ただ、逆に、そこから社内起業や社内新規事業の立ち上げが生まれてくることもあります。
大橋 そこがイノベーションですよね。
「期待しないで希望を持って」 メッセージの裏にある願い
石原 僕がSFプロトタイピングや「スペキュラティブデザイン」をやりたいと言われたときに注意事項ではないけど、「あまり期待しないでください」と言うことが多いんです。「期待じゃなくて希望を持ってほしい」と。
期待になると、これをやると一定の結果が得られると思ってしまいます。資格を取っておけば就職は大丈夫みたいな。それってSFプロトタイピングの真逆の思考です。
希望は不安の裏返しです。不安がなければ希望もないわけです。その不安も一緒に引き受けることが、新しい未来を想起させる上で重要な要素です。僕が注意事項として言いたいのは、「期待しないで希望を持って」。それだったら一緒にやりたい。
大橋 それはいい言葉ですね。「期待しないでほしい」だけなら、「いい加減なものを売っているのか」という話になるけれど、「希望を持つ」という言い方をすれば、先につながります。
ちなみに、SFプロトタイピングをやるとポジティブな感想をもらえるのですが、ロフトワークさんはどのような感想をもらっていますか?
丸山 ワークショップ参加者からよく言われるのは、「こんなことは考えたことがなかったので新鮮でした」ということが1番多いです。SF作家だけでなく、アーティストやクリエイターなど、自分がいる環境以外の人たちと議論をする、違うバックグラウンドを持った人たちと未来を考えるという機会は、会社にはありません。そういうところにいい印象を持ってもらうということが多い気がします。
関連記事
- 未来を考える“SF思考” 初心者こそやってほしいワケ 「意思決定者を度外視」がポイントに?
20年先、50年先、100年先――本気で「未来」を考える企業が増えています。注目が集まるのが、「SF」の力を借りてビジネスの将来像を考える手法「SFプロトタイピング」です。その取り組み方を取材しました。 - Z世代が100歳になった未来 暮らしは? 死とは? 「SF」から本気で考えるパナソニックの狙い
Z世代が100歳を迎える2096年、人々はどのような暮らしをしているのか――そんな未来を「SF」を使って考えたのがパナソニックです。商品より前に考えることがあると語る担当者に、狙いを聞きました。 - “2050年の試作品”を作ったソニーG デザイナーが「SF」活用 想像した未来とは?
ソニーグループのデザイン部門が「2050年」をテーマにプロトタイプを制作しました。SF的な思考で描いた未来とはどのようなものか、未来を考える意義が何か取材しました。 - SF小説を使った議論は“脳を刺激”した――LIXILが「SFプロトタイピング」で見つけたアイデアと希望
SFをビジネスに活用する「SFプロトタイピング」を実施したLIXILの若手社員を取材。新規事業の開発に携わる社員は、SF小説を使った議論が“脳を刺激”したと話します。 - NECが「SFプロトタイピング」実践 “SFのビジネス活用”が生む効果とは? 企画者が語る「相性の良さ」
NECが、ビジネスにSFを活用する「SFプロトタイピング」に取り組みました。イベントの他、社内2000人超のワークショップも開催し、アイデアが湧き出しました。企画者はブランディング施策として大成功だったと話します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.