「署名をUSBメモリで渡す」の是非 “FAX縛り”の取材に見た、国政DXの遅れ(3/3 ページ)
国や企業などに要望を伝えるための署名活動が変化してきている。最近は、署名データをUSBメモリに格納して渡す例も出てきたが、情報漏えいなどのセキュリティリスクも指摘されている。大量の署名を安全に受け渡すにはどうすればいいのか考える。
署名はそもそも、集めて渡すことが重要なのではなく、多くの声を可視化し、変化につなげることが目的だ。紙であれデジタル媒体であれ、提出・受け取り双方が、形式に合意した上で安全に受け渡し、相手に意見が届くことで意味が出る。
「どのような方法を選択したかにかかわらず、双方合意の上で提出された署名簿であれば『市民の声を届ける手段』としての大きな違いはないと考えている。重要なのは、意思決定者が受け取った署名簿や署名ページに寄せられたコメントをきっかけに対話が生まれ、それを今後の意思決定にどう生かしていくかだ」と、Change.orgの担当者は話している。
日本の“陳情DX”は遅れている? 海外では政府の「オンライン請願」も
Change.orgなどのデジタル署名は「陳情」に当たり、法的拘束力はない。国に対しての要望を届ける手段として、法律に基づく正式な手続きとして記録にも残るのは「請願」だが、日本政府はオンライン請願を受け付けていない。
国会に請願を行うには、紙の請願書と紹介議員が必須。また、署名簿には住所・氏名が自筆で書かれている(または押印がある)必要があるため、オンライン署名を請願につなげることは、現行の法律では不可能だ。(参考:衆議院「請願の手続」)。
一方、海外では、オンライン請願が普及している国もある。ドイツ政府は05年から電子請願を導入しており、21年は専用Webフォームからの請願が全体の約42%を占めたという(参考:参議院調査室の資料)。
米国ではオバマ政権が11年に「We the People」という請願サイトを立ち上げた。台湾では、60日以内に5000人のオンライン署名を集めることができれば、行政の関連部門が2カ月以内に書面で回答しなくてはならない「ジョイン」という仕組みがあり、コロナ禍で注目された(参考:第一生命経済研究所のレポート)。
日本でも地方議会では請願のオンライン化が実現しつつある。24年4月施行の地方自治法で、請願書のオンライン提出が可能になる予定だ。一方で、国会への請願のオンライン化は検討もされていないという。
岸田首相は「デジタル行財政改革」を重要課題に位置付けているが、紙と議員の紹介が必須の請願はあまりにアナログすぎるのではないか。政府にはぜひ、請願のDX化を検討してほしい。
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