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コラム

なぜ? 突如浮上した「NTT法」見直しを巡る、NTTと通信3社の対立 その理由を整理する(5/5 ページ)

突然浮上した、「NTT法」を巡る日本電信電話(NTT)と競合との激しい対立。NTT側が研究開発の開示義務やユニバーサルサービスの見直しなどによってNTT法の役割は終えるとする一方、KDDIやソフトバンクなど競合側は、NTTが“特別な資産”を持つ以上NTT法は維持すべきと主張、議論は平行線をたどっている。なぜ今NTT法の見直しが起きていて、NTT側と競合がそこまで対立する理由はどこにあるのかを確認したい。

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議論の余地は大きいが時間が足りない

 こうした競合らの姿勢に対し、NTT側も一定の譲歩をする姿勢は見せている。実際、2023年10月19日にNTTが実施した記者説明会では、NTTの代表取締役社長である島田明氏が、競合各社が懸念するNTT東西とNTTドコモの統合を「電気通信事業法の禁止行為として規定しても構わない」と話している。


NTT側はNTTとNTT東西の統合は否定しており、電気通信事業法の禁止行為規定にそのことを盛り込んでもよいと島田氏は話している

 また固定電話のユニバーサルサービスに関しても、島田氏は交付金制度の整備や、モバイル・衛星通信などより低コストで提供できる技術を活用することを前提に、NTT東西が不採算地域でのネットワーク整備を担う覚悟があると説明。競合の懸念を払拭しようとしている様子がうかがえる。

 だが2023年11月1日に競合3社が実施した記者説明会で、ソフトバンクの執行役員 渉外本部 本部長の松井敏彦氏は「口約束で合併しないと言ったとして、そこはわれわれに何ら保証がない」などとして島田氏の発言を一蹴。「特殊法人法には10年経ったら要らなくなるとは考えない。中身は多少変わるが今後も必要」と、NTTが“特別な資産”を持つ限り未来永劫NTT法は存続させるべきと主張している。

 “不意打ち”でNTTドコモを完全子会社化したNTTに対する競合側の不信感は非常に根深く、双方の主張は平行線をたどっているのが現状だが、競合側もNTT側の主張に全て反対している訳ではない。研究開発の開示義務や外国人の取締役就任などに関しては、時代に合わせて見直してもよいとしているし、NTT東西のメタル回線維持にかかわる赤字を見過ごしてよいとしている訳ではなく、固定電話のユニバーサルサービス見直しに関する議論の必要性は競合側も認めている。

 また外資規制に関しても、KDDIの執行役員 渉外・広報本部長である岸田隆司氏は、NTT以外の主要通信事業者も外資から守る必要があるというNTT側の主張に対し、「確かに公的インフラであり、安全保障上必要」と発言をしている。その一方で、外為法による規制は日本の政策と合わないとしており、なのであればNTT以外の企業をどうやって外資から守るのか? という点への言及はないのは気になった。

 そうしたことを考えると、NTT法に関する議論が成熟しているとは言い難いし、法の廃止か維持かはともかく、両者による議論を突き詰めれば何らかの落としどころがあるのでは? という印象も受ける。だが各種報道を見るに、自民党は年内にも法改正の方向性を出したい様子で、防衛費の財源確保に重きを置くあまり結論を急いでいるようにも見える。

 国の通信に大きく関わるNTT法の議論は、NTTの在り方も含め時間をかけて議論する必要があるはずだ。政府が財源確保ありきで議論不足のまま結論を急いだ結果、さまざまな部分で禍根を残してしまいかねないことが気掛かりだ。

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