「今日は風が騒がしいな……」──東大、袖がなびく装置を開発 強風に煽られている感覚を再現:Innovative Tech
東京大学大学院 割澤研究室に所属する研究者らは、振動で袖をなびかせて強風に煽られている感覚を再現できるウェアラブル触覚デバイスを提案する研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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東京大学大学院の割澤研究室に所属する研究者らが発表した論文「WearSway: Wearable Device to Reproduce Tactile Stimuli of Strong Wind through Swaying Clothes」は、振動で袖をなびかせて強風に煽られている感覚を再現できるウェアラブル触覚デバイスを提案する研究報告である。
竜巻に関する災害防止教育や飛行体験を取り入れたエンターテインメントなどでは、全身に強い風を感じさせる必要がある。しかし、全身に強い風を送るためには、大きくて強力なファンが必要である。このようなファンはスペースを取り、多くのエネルギーを消費し、非常に強い風で物を吹き飛ばす危険がある。
そこで提案されているのが「WearSway」という小型で軽量なウェアラブル触覚デバイスである。WearSwayは、大型装置を使わずに強い風の触覚刺激を提供する方法として、衣服が風になびく現象を利用する。従来の風のディスプレイが直接肌に刺激を与えるのに対し、WearSwayは衣服の動きを利用して強い風の感触を再現する新しい方法を採用している。
WearSwayは、腕に装着可能な布製ユニットと、ひもを使って布を振動させるモーターを搭載したアクチュエーターユニットで構成。アクチュエーター部分には「Hapbeat」というデバイスが使っており、これはひもを使って振動触覚刺激を生み出す。
Hapbeatは0〜600Hzの周波数範囲でモーターに接続したひもを振動させる能力を持っている。アクチュエーターユニットをベルトで腕に装着し、ひもの端を布に接続することで、振動するひもによって布を揺らすことができる。運転時の音量は約60デシベルだ。
WearSwayを応用したさまざまなバーチャルコンテンツで、強風の感覚や架空の触覚効果を生み出す3つのデモが紹介されている。1つ目は、災害防止教育で提示される疑似的な嵐の体験、2つ目は、飛行体験中の風の触覚刺激をシミュレートするもの、3つ目は、魔法のエネルギーをWearSwayを通じて体験し、魔法の攻撃や防御時の触覚フィードバックをシミュレートするものである。
デモでは、小型ファンを使用して実際の風も取り入れ、WearSwayによって強化された風速の感覚を体験できるようになっている。
Source and Image Credits: Kenichi Ito, Juro Hosoi, Kei Takanohashi, Yuki Ban, and Shin’ichi Warisawa. 2023. WearSway: Wearable Device to Reproduce Tactile Stimuli of Strong Wind through Swaying Clothes. In SIGGRAPH Asia 2023 Emerging Technologies(SA ’23). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 23, 1-2. https://doi.org/10.1145/3610541.3614576
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