作りたてカレーが“すぐに”数日寝かした味に変わる? 食品を過去や未来の味に変える装置 明治大が開発:Innovative Tech(2/2 ページ)
明治大学の宮下芳明教授は、飲食物の味を過去や未来の味に変化させる手法を提案した研究報告を発表した。主に未熟なトマトや作りたてのカレーの味を数日後の味に変えること、熟れたトマトや一晩置いたカレーの味を以前の味に戻すことが可能かを検証した。
作りたてカレーを“数日寝かした味”に
次の実験では、カレースープの味の変化とその再現を試みた。味覚センサーによる測定から、熟成によりカレーの煮詰まりによる渋味、塩味、うま味が濃縮されることが分かった。その測定値を基に、カレースープの味を特定の日に合わせて変えるための添加物の量を計算した。
結果として、グルタミン酸ナトリウム、タンニン酸、塩化ナトリウムを適切な量で添加することで、熟成したカレーの味を再現できることが分かった。また、逆に熟成したカレースープの味を元に戻すためには、水を加える必要があると判明。この配合で実際に味変化を試みたところ、順行ではかなり熟成した感じが得られ、逆行でも味の再現が一定程度みられた。
この技術の応用範囲は広く、未熟や熟れ過ぎた食材の味調整や、教材の作成、食品の賞味期限の概念を超えたフードロス削減に役立つと考えられる。また、不可逆な変化も可能である。例えば、焼いた魚を刺身の味に戻すなどの実現が可能になるかもしれない。
最優秀発表賞(一般)を受賞した登壇発表では、聴衆に味覚サンプルが配られ、トマトの順行した味と改良されたレシピによる逆行の味を体験できたという。
味をタイムトラベルさせる装置
この知見をもとに開発された食品の時間を操る味覚AR装置「Taste-Time Traveller」は、内部に食品を入れてダイヤルを回すことにより、指定した時間が経過した後の味や、指定した時間だけ前の味に変えることができるシステムである。
このシステムはTTTV3と同様のメカニズムを採用しており、チューブポンプを用いて少量の味溶液を出力し、それを食品にかけることで味を変更する。TTTV3と異なる点は、筐体の前面に透過液晶ディスプレイ付きの扉が設けられており、この扉を通じて内部に食品を入れ、映像を表示できる点だ。
透過液晶ディスプレイに表示されるメイン画面では、画面左下に目標の時間が示されている。ユーザーは右下に位置するダイヤルをタッチ操作で回転させることにより、時間を前後に調整可能だ。
ダイヤルの操作により、AR表示された食品グラフィックや空間を飛び交う粒子が変化し、表示されている時間も変わり、時間の変化を視覚的に演出。対話発表賞(一般)を受賞したデモンストレーション発表では、体験者は自由にカレースープの味の時間操作を行い、味の変化を実感できたという。
Source and Image Credits:宮下 芳明: Taste Time Machine : 飲食物を過去や未来の味に変える装置の実現に向けて. 第31回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2023)予稿集, pp.55 - 61, 2023. https://www.wiss.org/WISS2023/
藤澤 秀彦, 宮下 芳明. Taste-Time Traveller:食品の時間を操る味覚AR装置. 第31回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2023)予稿集, pp.1 - 3, 2023. https://www.wiss.org/WISS2023/
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