「全銀システム障害」とは何だったのか 解明まで時間がかかった理由と、待ち構える“茨の道”とは(5/5 ページ)
2023年で最もインパクトがあったトラブルの1つに全銀システム障害がある。「なぜ発生したのか」「何が起きているのか」「どこに向かうのか」の3つのポイントについて、いま日本の金融業界で起きている変化を交えて整理したい。
茨な“モダン化”への道
そして、このシステムのモダン化はなかなかに茨の道だ。
まずシステムのオープン化については、メインフレーム+COBOLという比較的安定した稼働環境を提供する仕組みに対し、オープンシステムではOSを含むシステムに加え、プログラミングを行う言語の流行廃りも激しく、判断基準が非常にシビアだ。例えば「10年以上先のトレンドを見据えて24時間365日稼働の基幹システムのプラットフォームや開発言語を選んでくれ」と相談され、即座に回答できる人がどれだけいるだろうか。アジャイル領域の設定やクラウド対応への表明は、こうしたトレンドの変化を取り込むための施策と思われるが、現時点ではこれがどの程度活用されるのかはまだ見えていない。
また「全銀フォーマット」と呼ばれる電文の送受信からAPI方式に接続方法が移管されたとき、ついてこられる金融機関がどれだけいるだろうか。API接続はネット銀行を中心にすでに利用が進んでいるものの、多くの既存の金融機関ではそこまで対応が進んでいない。20年に全銀協が金融機関にアンケートを取ったところ、API移行への反応は芳しくなかった。それは23年現在でもそれほど変わらず、25年に稼働を開始するAPIゲートウェイについて全銀ネットでは「当初の主な利用者は(○○Payなどの)資金移動業者やネット銀行を想定する」と回答している。
だがAPIゲートウェイのターゲットとされた複数の金融機関の話によれば「現状でAPIゲートウェイを介しての全銀システムとの接続はメリットを見いだせず、他の提携金融機関との接続やサービス提供で手いっぱい」といった反応が多かった。ネット銀行などでは、自社の銀行システムを他の事業者に貸し出す「BaaS(Bank as a Service)」の仕組みをビジネスモデルとしているところが多いが、全銀システムへの接続が彼らのビジネスモデルに直結しづらいという点も対応に後ろ向きな姿勢を示す理由なようだ。
まとめとなるが、大規模障害の発生を受けて「日本の金融システムは世界に比べて劣っている」といった評価を見かけたが、実際にこの規模のシステムは世界にもそれほど例はない大規模で堅牢なもので、手順の不手際はともかくシステムそのものをやゆされるべきものではないことは改めて強調しておきたい。
また、1000行以上が参加する全銀協の傘下組織である全銀ネットは、メガバンクを中心とした顧客でありスポンサーの意向を大きく受けつつ、限られたリソースの中で最善手を尽くさなければならないという点で非常に苦慮しており、特に今回の第8次システムのように全銀システムの在り方そのものが変わるトレンドの転換点において、より大きな苦労を背負い込むことになることが予想される。
メインフレームやRCがほぼ撤廃されることになる30年以降に向けて、まだまだ移行作業は続いていくことになるが、システム提供者側の視点で全銀システムを見つめていくことで、今後も出てくるであろうさまざまなニュースもまた違った見え方がするかもしれない。
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