東京藝大の卒業展示に“AIアニメ” 一体なぜ? 制作者に話を聞いた(2/2 ページ)
東京藝術大学が開催している「卒業・修了作品展」に生成AIを使った作品が登場した。「AIと制作」と題して、生成AIを利用して作ったアニメーションとその制作プロセスを明かした作品だ。なぜ卒業制作に生成AIを取り入れたのか。制作者に話を聞いた。
KALINさんは「私は高校生のころからアニメーションを作ってきましたが、大学4年に進級する2023年に生成AIが話題になりました。それを見たとき『AIがこれからツールとして使われるのは避けられない道なのかなと思いました』」と続ける。現時点で生成AIを使った制作の可能性と不可能性を試してみることを目的に、制作に当たったとしている。
制作を始めたのは23年5月末ごろ。それまでAIツールを利用した経験がなかったため、0から操作方法を学び制作を始めた。まず取り組んだのは、ChatGPTを使った脚本作りだ。ChatGPTが作った脚本案を見たとき、KALINさんは「どこかで見たことある感じ」「話がきれいすぎて面白くない」などの感想を抱いたと話す。
その後約1カ月間、ChatGPTを使った脚本作りを行い、ChatGPTが提案したテーマの中から「老人と花」という案を採用。手書きでの加筆・修正もし、脚本を完成させた。展示ではKALINさんとChatGPTとのやりとり全文を記録したWebページへアクセスするための二次元コードも公開している。
作成した脚本をもとに、絵コンテを手書きで作成。作成した絵コンテを1カットずつその特徴を言語化し、英文のプロンプトに変えて画像生成AIでAI画像の作成に取り組んだ。画像生成AIで出力した画像は約600枚、そのうち89枚を完成映像に採用したという。
「AI画像を生成して感じたのは“本当はもうちょっとこうしてほしいな”ということでした。『もうちょっと角度をつけたいな』『色味を少し変えたいな』『この植物は、この場所に生えていたらおかしいな』とか問題点がいろいろあったんです。パッと見ではきれいな画像なので、少し手直して使いました」
映像を作っていく中で、今回の映像ではキャラクターやアニメーションは手書きで作成することを決めたという。その理由として「分かりやすい感情表現なら問題ないんですけど、キャラクターが複雑な感情を抱いた表情などは、AIではうまく生成できませんでした。プロンプトに工夫の余地はあったのかもしれませんが、だったら自分の手で描いた方がいいなと考えました」と説明する。
AI導入でアニメ制作の効率向上 1年で3分半が“7カ月で8分半”に
こうして制作を続け、KALINさんは約7カ月間で約8分30秒の映像を完成させた。AIを使って映像を完成させた感想を聞くと「ツールとしてすごく助けられた部分がありました」と話す。
「これまで1人でアニメーションを作っていたときは、1年かけて3分30秒の映像を作るのが限界だったんです。特に背景を作るのに時間がかかっていて、アニメーション部分がおろそかになることが結構多くて。作業効率の点では、AIを使った方が圧倒的に速かったです」
とはいえ、AI利用についてはまだ完全にポジティブとは言い切れないとして“中立”の見方が強いと続ける。AIツールの1ユーザーとして作った今回の卒業制作を通して、AI周りの法規制はある程度必要と感じたという。
この展示では、作品を見た人も意見を送ることが可能で、意見を書いた付箋を展示物に貼る形で公開している。どのような意見が集まっているか聞くと「AIに対して好意的な意見が半分以上占めていました。この作品に対する批判はありませんでしたが、その仕組みやAIが抱える“グレーな問題点”を指摘する声も多かったです」と話した。
なお、記者が確認した限り、全ての展示を見られたわけではないが、KALINさんの作品以外にも、少なくとも3点以上の展示作品で生成AIを利用している様子を確認できた。東京藝術大学の卒業・修了作品展は、2月2日まで開催予定だ。
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