「名画にスープをかける」は気候変動への抗議活動になるのか? 英メディアの報道を分析:Innovative Tech
ノルウェーのNLA University Collegeに所属する研究者Oleksandr Kapranovさんはは、気候変動抗議の一環として有名な絵画に食品を投げつける行為を報じる英国メディアを分析した研究報告を発表した。
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このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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ノルウェーのNLA University Collegeに所属する研究者Oleksandr Kapranovさんが発表した論文「Throwing Soup at Van Gogh: The Framing of Art in Climate Change Activism by British Mass Media」は、気候変動抗議の一環として有名な絵画に食品を投げつける行為を報じる英国メディアを分析した研究報告である。
最近の環境活動家による抗議活動の一環として、著名な絵画への食品投げ付けが注目されている。この活動の初めての記録された事例は、2022年10月にイギリスのナショナル・ギャラリーで発生した。
この事件では、2人の活動家がゴッホの「ひまわり」にスープの缶を投げ付けた。その後、ドイツのバルベリーニ美術館でも類似の事件が起き、モネの「積みわら」にポテトピューレが投げ付けられた。さらに最近では、フランスのルーブル美術館に展示されているダ・ヴィンチの「モナ・リザ」にもスープがかけられたという報告がある。
これらの事件は、環境活動家による気候変動抗議と芸術作品との複雑な相互作用を示している。食品を投げられた絵画は気候変動に特別なメッセージを持つわけではなく、自然のモチーフと関連している。活動家による行為は気候変動に優しいモチーフを持つ有名な絵画に焦点を当てており、このような事件は単純ではなく、包括的な調査が必要である。
この研究は、英国のメディアが環境活動家による芸術作品への食品投げつけ行為をどのように報道しているかを明らかにするものである。メディアがどの視点で報道しているかで、受け手に伝わる印象や価値観が異なるからである。
この目的のために、研究では「Metro」「SkyNews」「BBC」「The Daily Mail」「The Guardian」「The Independent」「The Telegraph」などの英国の主要メディアによるオンライン報道のコーパスを収集し、分析した。特に、ゴッホの「ひまわり」とモネの「積みわら」に食品を投げ付けた事件に関する報道を対象にした。
分析の結果として、このような事件はいくつかの異なる視点で報道されていることが分かった。具体的には「気候変動抗議」という視点ではなく、以下の3つの視点だった。
- 絵画へのダメージ:SkyNewsとThe Guardianでは、絵画に食品を投げ付ける行為を「犯罪的な損害」として強調し、絵画の額への損害による裁判所への出廷などを報道している。一方で、Metro、BBC、The Independentでは「損害の不在」を強調し、絵画がガラスで保護されていることから、絵画がきれいにされ、再び展示されている様子を報じている。
- 絵画の価値:The Daily MailとSkyNewsは、高価な絵画に食品を投げ付けたことを強調し「7600万ポンドの価値がある絵画にトマトスープを投げた」といった金銭的価値を示した報道を行っている。
- 閉鎖:The Telegraphは、他のメディアとは異なり、絵画の展示や美術館の閉鎖を報道しており、これによる文化愛好者への影響を懸念している。
唯一、The Guardianだけが「気候変動抗議」をフレーミングとして報道し、活動家の意図と抗議の背景に焦点を当てている。この報道姿勢は、The Guardianの政治的立場がフレーミングに影響を与えている可能性を示唆している。
これらの結果から、英国のメディアの多くは、気候変動抗議よりも絵画の損害、価値、そして閉鎖への影響を強調して報じており、気候変動の問題はこれらの象徴的な絵画の価値によって影を潜めていると考えられる。
Source and Image Credits: Oleksandr Kapranov. Throwing Soup at Van Gogh: The Framing of Art in Climate Change Activism by British Mass Media
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