NHKも採用する「バーチャルプロダクション」 先進性だけじゃない、業界の“切実な導入理由”とは(3/3 ページ)
一般のテレビ番組でも広がりつつあるバーチャルプロダクションだが、どうも先進性だけでなく「切実な面」でも選ばれるようになっているという。バーチャルプロダクションにいち早く参入し、NHKとも協力するスタジオブロスに、業界が導入する背景を聞いた。
「PC1台でバーチャルプロダクション」が可能になる技術
ただし、大量のバーチャルエキストラを登場させ、リアルな3Dアセットを大量に配置するとなると、ハイパワーで高価なレンダリングマシンが必要になってくる。ソニーPCLの例では、巨大LEDスクリーンを10エリアに分割してそれぞれにレンダリングマシンを割り当てる分散方式をとっていたほど。その一方で、スタジオブロスはクラウドのパワーを取り入れ始めているという。
先述のVRシステムを使った歴史探偵の収録は大阪で行われたが、本来なら「ワークステーション3台+1台」を持ち込む予定だった。しかし「重いワークステーションを東京から運びたくない」と、代わりに導入したのがAWSだという。
なぜなら、Unreal Engineのクラウドレンダリングが実用的だったことが判明したため。「普通に60fps出ていたしレイテンシが全く感じ取れなかった」「本当にクラウドから出ているの? と自分たちですら信じられなかった」と、スタジオブロスでチーフコンテンツエンジニアを務める上津原一利氏は驚いたという。
遅延なくレンダリングできるので、オンプレ環境のようにアセットを使った収録用の仕込みにも対応できたという。「ここでキューを出すから(バーチャルセット上で)馬を走らせてほしい」といった要望に対し、MIDIコントローラーを使い「これ叩けば3秒後に走り出しますよ」と番組用の演出も仕込むことができた。
コスト低減で地方局にもメリット
クラウドでのレンダリングが実用になるということは、バーチャルプロダクションの機材コスト低減にもつながってくる。
「スペックの足りないマシンでも、全く問題なく運用できたという実績が生まれたんです。PCを単純に出力インタフェースとしてしか使ってないってことです」「入出力機材としてPCがあれば、HDMIポートからSDIに変換して、NHKの調整室に入れてそこで収録できる」(金子氏)
こうしたクラウドを使ったコストメリットは地方局にも恩恵がある。「技術を均一化し、誰でも簡単に(バーチャルプロダクションが)できるところまで落とし込んでいくのが最終的な目標」「地方だとカメラも照明も1人でやることがある。そこで使ってもらうにはどうすればいいか。運営費を下げるためにはクラウドはとても大事」という。
インカメラVFXに必要なカメラトラッカーは1台数百万円するものもある。スタジオブロスでは、単価の安いトラッカーやクラウドを使い、イニシャルコストを抑えつつ「2人で回せるバーチャルプロダクションシステム」の開発を続けているという。テレビ業界の「切実な課題」をエンジンに、バーチャルプロダクションの民主化が静かに進みつつある。
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