“ビールは冷やす”となぜうまい? 中国の研究者らが調査 アルコール度数と温度の関係に迫る:Innovative Tech
中国科学院や中国の白酒メーカーである五粮液などに所属する研究者らは、異なるアルコール度数や温度によって味わいなどが変化するメカニズムを解明するために検証した研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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中国科学院や中国の白酒メーカーである五粮液などに所属する研究者らが発表した論文「Ethanol-water clusters determine the critical concentration of alcoholic beverages」は、異なるアルコール度数や温度によって味わいなどが変化するメカニズムを解明するために検証した研究報告である。
酒は数千年前から人類が愛する嗜好品の一つだ。キリンホールディングスによると、最古の酒の一つとされうワインは約7000年前から、ビールは約5000年前から作られているという。これらのアルコール飲料の主成分はエタノールと水である。
さまざまな種類があるアルコール飲料だが、白ワインやビールは冷やして飲み、中国でつくられる白酒は温めて飲むのが一般的だ。これは長い歴史の中で経験則として人類の中で引き継がれているが「なぜビールは冷やすとおいしいのか?」のように、度数と温度の関係についての科学的な説明には曖昧な部分が多かった。
そこで研究チームでは度数と温度の関係について、調査を行った。まず、お酒の主成分であるエタノールと水を混ぜた液体を使って、アルコール度数を変化させながら表面張力の接触角を測定した。その結果、アルコール度数が上昇するにつれて、表面張力が一定の段階で変化することが明らかになった。
その変化の節目となるエタノールの割合が、ビール、ワイン/米酒、日本酒、ウイスキー、ウオッカなど、各種アルコール飲料の典型的なアルコール度数と一致したのである。つまり、各種お酒のアルコール度数は、経験則に基づいて決められているように思えるが、実はしっかりとした科学的根拠があったというわけだ。
次に、核磁気共鳴分光法(NMR)やコンピュータシミュレーションなどを用いて、異なるアルコール度数と温度における水とエタノール分子のクラスタ(分子が複数集まったもの)を詳細に観察した。その結果、エタノールの割合によって、エタノールと水の分子が作るクラスタの形が変化していることが明らかになった。
アルコール度数の低い飲み物ではエタノール分子が水分子に囲まれた “四面体型” のクラスタが主に形成されるが、アルコール度数の高い飲み物になるとエタノール分子が鎖状につながった “鎖型” クラスタが支配的になるという。
しかも、この分子レベルでの構造変化が、表面張力の段階的変化や、各種お酒のアルコール度数の違いと密接に関係していた。
さらに、エタノール水溶液の温度を変えると、クラスタ構造にも変化が生じることが分かった。これらは2つの実験で評価できた。
1つ目の実験では、5%と11%の2種類のエタノール水溶液をどちらも5度に冷却した。その結果、どちらも25度(室温)と比べて鎖型クラスタが増加することが分かった。また5度に冷却する前後でビールの味を区別する官能試験を行った結果、冷却後のビールの刺激の増大とエタノールのような味をより正確に感じることができた。
2つ目の実験では、39%と52%の2種類のエタノール水溶液を40度に温めた。その結果、39%の溶液の鎖状クラスタが大きく変化し、52%の溶液に似た構造になった。さらに、40度に加熱した39%と52%の白酒(中国のお酒で、アルコール度数は38〜68%程度)を飲み比べると、加熱前は味の違いは簡単に見分けられたのに対し、加熱後は違いが分かりにくくなった。
また加熱後の2つの白酒は、舌に感じる刺激やエタノール風味がとてもよく似ていたという。つまり、ある程度のアルコール度数を持つ飲料を40度(ぬる燗程度)に加熱すると、より高いアルコール度数の味わいや刺激になるということを意味する。
Source and Image Credits: Xiaotao Yang,Jia Zheng,Xianfeng Luo,Hongyan Xiao,Peijia Li,Xiaodong Luo,Ye Tian,Lei Jiang,Dong Zhao. Ethanol-water clusters determine the critical concentration of alcoholic beverages.
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