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なぜ360度開くスーツケースの素晴らしさは伝わりにくいのか? エース「プロテカ360」とその製造過程分かりにくいけれど面白いモノたち(4/5 ページ)

私は、エースの「プロテカ360」を愛用しているのだけど、これは360度ファスナーが開くので、使うたびに縦にも横にも開閉できる素晴らしさを実感している。今回は北海道赤平市にある工場を訪ね、プロテカの製造工程を探った。

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 ここでのハイライトは、加熱して、約250度あるマグネシウム合金のフレーム素材を、特殊な手袋を着けた職人さんが、熱そうなそぶりも見せず、手で取り出して曲げ用の機械にセットする姿。4つの角を曲げ終わるころには100度くらいに下がると言われても、100度でも十分に熱いはずだ。機械のズレを防ぐため、20本曲げるごとに角度を確認しているというのも、言われれば当然なのだが、機械だから自動という訳ではないことを思い知らされる。


重ねた布を正確に裁断できる全自動裁断機。どれだけ切れ味の良い刃が使われているのか想像もできない

 身近なだけに圧巻だったのは、スーツケースの内装に使う布の裁断。内装に使うウレタン、生地、メッシュ、芯材などのカットデータはCADで作られて、抜き、断ち、全自動裁断機のそれぞれに振り分けられて、裁断されるのだが、この中の全自動裁断機が、ものすごかった。

 ロールになった大きな布を数枚から数十枚、布の厚さや素材に合わせて重ねたものを、バキュームで台に密着させて、CADデータ通りに自動的に布を裁断していく。重ねた布を真っ直ぐに切るわけで、裁ちばさみの切れ味を知っているから、余計に、この機械の刃はどうなってるんだろうと思う。


プロテカ360の全方位に開くジッパーの取り付け。ケース本体を回しながらミシンで縫い付けていく。手作業で、あのスムーズに開閉するジッパーが縫い付けられている衝撃

 組立工程では、一気に職人の世界になる。中でも「プロテカ360」の最大の特長である、ケースを一周するジッパーの取り付けが、手作業のミシンで行われていることに驚く。

 いや、他にやりようがないのは分かっていたのだけど、それでも、どのような開け方でもスムーズに開閉できるジッパーを日ごろ使っているだけに、あの精度を人の手で実現していることに驚いたのだ。前述したように、360度開く機能は、私にとってはなくてはならない機能だ。その割に、あまりパクられている様子もないのを不思議に思っていたのだけど、これは低価格での実装は無理だと、そのジッパー取り付けの工程を見て納得した。

 プロテカ360は、一般的なジッパースーツケースと異なり、ジッパーが1周縫いの作りになっているので、作りが難しく、高い技術を要するのだそうだ。実際、手で支えて、ぐるりと縫い付けていたのだが、一日何百個と作られる製造ラインの中では、じっくりと取り付けるというわけにはいかないから速度も必要になる。私たちが見た方は、新人でまだまだ遅いと言われていたのだけど、それでも十分に驚ける速度だった。


「プロテカ チェッカーフレーム」の内装貼り付け作業。次々と美しく貼られたケースが出来上がる様子は、手品のようだった。

 内装の貼り付けも、糊付けこそ機械が行うけれど、そこに布を広げて、ぴたりと貼り付けていく作業は手作業なのだ。確かに、これも機械でやろうとしたら、とんでもなく巨大なものが必要になりそうだが、それにしても、その手際は手品のようだった。

 エースさんにいただいた資料によると、「一般的なスーツケースの内装生地はミシンで縫い付けるだけですが、プロテカではクッション製のあるウレタン生地を手貼りして仕上げる製品も多く、素早く美しく貼り付けるには高い技術を要します(技術の習得に早くて3年掛かります)。手貼り内装は赤平工場ならではの特徴で、海外製との大きな違いです」ということだ。

 思わず、帰宅したあと自分のスーツケースの内装をしみじみ見てしまった。こういう工程を見ていると、スーツケースは一般的なブリーフケースやトートバッグの内装貼りと同じような作業を、より巨大なスペースで行わなければならないということをあまり意識していなかったことに気がつく。

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