「1日に多めの水を飲むと健康に」は本当?――体重減量、頭痛軽減、糖尿制御など水分摂取量と健康の関係を徹底分析:Innovative Tech
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校などに所属する研究者らは、水分摂取量の変化が健康に与える影響について調査した研究報告を発表した。
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このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米カリフォルニア大学サンフランシスコ校などに所属する研究者らが発表した論文「Outcomes in Randomized Clinical Trials Testing Changes in Daily Water Intake」は、水分摂取量の変化が健康に与える影響について調査した研究報告である。
一般的には、1日の水分摂取で推奨される量は8カップ(1920ml)/日といわれてきた。しかし、この水分摂取の根拠は明確でなく、摂取量を増やすことの利点も十分に確立されていなかった。そこで研究グループは水分摂取量の変化が健康にどの程度影響しているかを検討した。
研究チームは2023年4月までに発表された1464件の研究を精査し、そのうち18件の試験を分析対象とした。これらの研究では、参加者に対して特定の水分摂取量の変更を指示し、健康への影響を観察している。分析結果は次の通りである。
「1日に多めの水を飲むと健康に」は本当か
まず体重減少に関する研究では、食前に約500mlの水を摂取した成人参加者において、より大きな体重減少を記録した。これは水分摂取が満腹感を高め、カロリー摂取を抑制するためと考えられる。また、水分摂取は高カロリー飲料の代替となることや、健康的な食事を意識するきっかけとなる心理的効果も期待できる。
ある研究では、食前の水分摂取(500ml)により、高齢者の食事エネルギー摂取量が約111kcal減少することを示していたが、若い成人ではこの効果は確認できなかった。
糖尿病患者を対象とした研究では、1日1000mlの食前の水分摂取により、空腹時血糖値が改善した。この効果は血糖値が高い患者でのみ確認され、正常値の患者では効果が見られなかった。この効果は食事摂取量の減少や体重減少による可能性もある。実際に、介入群では体重減少が見られたのに対し、対照群では見られなかった。
頭痛持ちの成人が水分を多く取るようになって3カ月後、生活の質が改善したという報告がある。ただし、参加者が少なく、途中で離脱した人も多かったため、明確な効果を証明するには至らなかった。再発性の頭痛や重度の頭痛に対する水分摂取の予防・治療効果を明らかにするには、さらなる研究が必要である。
尿路感染症の参加者を対象とした研究では、1日1500mlを追加で水分摂取することで、感染症の発症回数が減少し、次の発症までの期間が長くなることを示した。一方、過活動膀胱の患者では、逆に水分摂取量を25%減らすことで頻尿や尿意切迫感、夜間頻尿といった症状が改善することを示した。
カルシウム結石を経験した人が水分を多く取って1日の尿量を2000ml以上にすることで、新たな結石ができる頻度が半分以下に減り、再発までの期間も延びることが分かった。また、健康な人でも水分を多く取ることで、結石ができるリスクが下がることを示唆した。
他には、低血圧の成人が水分を多く取ることで日中の血圧が上昇したという研究も報告されている。
このように、研究の質と数は十分とはいえないものの、体重減少、頭痛の予防、尿路感染症、糖尿病のコントロール、低血圧の改善などの特定の状態における有効性が示された。水は安価で副作用も少ないことから、これらの健康状態に対する効果をより詳しく調べるため、さらなる良質な研究が必要であるとしている。
また、個人の体重、活動レベル、健康状態によって適切な水分摂取量は大きく異なることから「1日にこれだけの水を飲むべき」という一律の推奨量を決めることは難しく、それぞれの人に合った適切な水分摂取量を考える必要があるとしている。
Source and Image Credits: Hakam N, Guzman Fuentes JL, Nabavizadeh B, et al. Outcomes in Randomized Clinical Trials Testing Changes in Daily Water Intake: A Systematic Review. JAMA Netw Open. 2024;7(11):e2447621. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.47621
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