「TVer大躍進」となった2024年 その背景をひもとく:小寺信良のIT大作戦(4/4 ページ)
今年、TVerの伸びがすごいという話があちこちで聞かれるようになった。「メディア定点調査2024」によれば、TVerの利用率は緩い右肩上がりで推移してきたが、前年の2023年には39.5%であったものが、24年は50%越えを達成し、もはやキャズムは超えたといえる。
県域放送が無意味なものに
地上波放送のエリアは、全国放送、広域放送、県域放送の3つに分けられる。全国放送は言うまでもなく全国に同じ番組を流すわけだが、広域放送は関東圏の7都県、中京圏の3県、近畿圏の6府県ごとに固まって同じ放送を流している。例外は徳島県の近畿圏隣接地扱い、佐賀県の福岡県隣接地扱いがあるのみで、それ以外は県域ごとに放送エリアが分かれている。
それはとりもなおさず、地方局の利権を守るためには必要な措置で、一種の囲い込みである。県境などでは隣県のテレビも受信できることもあるが、基本的には各県独自の経済圏で回していくという仕組みになっている。
とはいえ、首都圏、中京、近畿のキー局が全て独立して全国ネットされているわけではなく、当然見られない番組も出てくる。こうした不都合を是正するために、地方局は1局で複数のキー局番組を独自編成で編み込むという、クロスネットという方法で凌いでる。
クロスネット局は日本ではそう多くはない。福井放送、テレビ大分、テレビ宮崎、宮崎放送ぐらいであろう。特にテレビ宮崎は、現在日本国内で唯一の3局クロスネット局である。逆にクロスネット局がない県は、地方局が1局ネットなわけで、完全に見られないキー局というのが出てくる。
TVerの1人当たり平均再生時間ランキングを見てみると、1位の宮崎県、2位の福井県はクロスネット局があるが、同時に民放が2局しかない県である。それ以降のランキングに登場する県は、民放が3局程度の県である。
民放の少ない県ほどTVerを多用しており、これによって広域放送圏同様の番組にアクセスしている事になる。ネット配信は通信であり、放送ではないという立て付けになっていることから、越境視聴が認められる。
これは当然、地方局の経営にも影響を与えることになる。こうした県域放送は将来維持できなくなる時が来るとして、2022年頃から総務省主導の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」で議論されてきた。この提言が2023年の放送法・電波法改正につながり、複数の放送対象地域における放送番組の同一化や、中継局の共同利用などが進められることとなった。
つまり、近県同士で放送内容であったり、放送設備をまとめていくという方向である。すでにラジオのほうではこうした番組乗り入れが進んでおり、テレビも地方局のローカル番組は、ある程度集約されていく可能性が出てきている。
12月3日にNHKは、民間放送の放送ネットワークを維持するため、NHKと民放が所有する中継局の保守・利用を進める子会社を設立する方針を発表した。地方局の中継局運営をNHKが助ける格好になるものと思われる。
ちなみにテレビの中継局の位置解数は、A-PABがデータを公開している。おそらく想像以上に中継局が大量にあって、驚かれることだろう。NHKはもちろん自前で全部そろえているが、民放もそれぞれ別個にこうした放送網を維持するのは無駄ではないのか、相乗りできるところはしたらいいんじゃないのか、という話である。
これはいわゆる水平統合の話だが、一方で垂直統合の話も出てきている。11月29日に発表された、日本テレビ系列4社が経営統合するという。従来独立採算であった系列各局が、1つの会社にまとまるわけだ。この方法論は他の系列局にも波及する可能性が高い。
テレビはオワコンといわれて久しいが、現実にはテレビ番組自体はまったく終わっていない。だが地上電波受信というシステム自体が、オワコンになり始めている。以前も英国での議論、もう地上波放送は終わっていいんじゃないかという話をご紹介したことがあるが、日本でも方法論は異なるが、徐々にこうした考え方が受け入れられていくのではないだろうか。
イギリスでは今年になって、慌ててBBCが中心となってテレビ局共同の配信プラットフォーム「Freely」を立ち上げた。だが日本にはすでにTVerがある。日本における放送再編は、TVerの躍進と無関係な話ではない。
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