「光通信」と「量子通信」の同時伝送に成功、世界初 インターネットを邪魔せず同じケーブル内で量子テレポーテーション:Innovative Tech
米ノースウェスタン大学などに所属する研究者らは、世界中のインターネット網で使われている既存の光ファイバーケーブルを、量子通信にも利用できる可能性が示された研究報告を発表した。
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米ノースウェスタン大学などに所属する研究者らが発表した論文「Quantum teleportation coexisting with classical communications in optical fiber」は、世界中のインターネット網で使われている既存の光ファイバーケーブルを、量子通信にも利用できる可能性が示された研究報告である。
量子通信とは、量子力学の原理(量子状態の重ね合わせや量子もつれなど)を利用して情報を伝送する通信技術である。
研究チームは、30.2kmの光ファイバーを使用し、通常のインターネット通信を妨げることなく量子テレポーテーション(量子通信の一種で量子もつれを使用した通信技術)を成功させた。
実験では、1本の光ファイバーケーブルを通じて、毎秒400Gbitという大容量の古典的なデータ通信を行いながら、同時に量子状態の転送を行う。
従来の実験では、光子の量子状態が非常に壊れやすいという性質から、他の通信信号が一切存在しない専用の光ファイバーを使用する必要があった。しかし研究チームは、他の通信信号からの干渉を最小限に抑えられる特定の波長を発見することで、この制限を克服した。
具体的には、光通信と量子テレポーテーションで使う波長帯を十分に離し(CバンドとOバンド)、さらに高性能なフィルタリング技術を組み合わせることで、両者の干渉を防いで同時伝送を可能にした。
量子テレポーテーションは、アリス、ボブ、チャーリーという3つのデバイスを使用して行われる。まず、ボブが量子もつれ状態にある光子のペアを作り出し、1つをチャーリーに送り、もう1つを手元に保持する。
次に、アリスが情報を含んだ別の光子をチャーリーに送る。チャーリーは受け取った2つの光子を特殊な方法で測定することで、アリスの光子が持っていた量子状態を、ボブが保持している光子に転送する。これが量子テレポーテーションの基本的な仕組みである。
この成果の重要な点は、既存の通信インフラを活用できる可能性を示したことである。新しい光ファイバーケーブルの敷設が困難な都市部などでも、既存のケーブルを利用して量子通信を展開できる可能性を示した。
Source and Image Credits: Jordan M. Thomas, Fei I. Yeh, Jim Hao Chen, Joe J. Mambretti, Scott J. Kohlert, Gregory S. Kanter, and Prem Kumar, “Quantum teleportation coexisting with classical communications in optical fiber,” Optica 11, 1700-1707(2024)
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